ひららら

いろいろ言う

ユニコーンに殺されたい

深夜3時。唐突にベッドに転がっていた美羽が問いかけてきた。

「莉音、いつになったら結婚すんの?」

「うっせぇ、死ねカス。」

私は間髪入れずに答えを返す。

「28にもなって未だに彼氏ナシで生きてる人生なんて親が知ったらどう思うことやら…」

「なによ!てか美羽あんたもじゃない!」

「私はいいんですぅ〜!きっとたぶんおそらくもうすぐ運命の人がやってくるのでぇ〜〜!」

こいつはこんなことを言ってくるが10年前から同じことを言ってる。自分で言ってて悲しくなるが二人とも彼氏いない歴=年齢のアラサー直前28歳である。否、28はまだアラサー踏み込んでないわ、ピチピチ20代よ。

美羽は私の高校生時代からの悪友で大学も一緒、なんならいま勤めてる会社まで同じで近くに住んでるのでしょっちゅう私の家に遊びにくる。

「そんな王子様待ってる純情な少女の時代はもう終わったのよ、現実見据えなさい?」

「い〜や、私のもとにはユニコーンに乗った王子様がやってくるんです〜!」

白馬どころかユニコーンである。まぁ美羽ならユニコーンに殺される心配もないのである意味合理的である。

「莉音も殺されないから安心だね!」

「うっせぇ!」

だいたいこんないい歳して女友達の家にこんな深夜までいる人間悲しくないのか。周りの同僚は結婚して夫と仲良くしてるか同棲中の彼氏と仲良くしてるかだろ。なんで私はただの腐れ縁と仲良くしなきゃいけないんだ。

「なに?私たちもほんとに"仲良く"なっちゃう?」

そう言って美羽は徐に服を脱ぎだす。

「やめろやめろ、私にそういう癖はねぇんだわ。」

「なぁ〜んだ、つまんないの。」

もう10年以上付き纏われてるとこんなちょっかいはしょっちゅうなので軽く受け流せてしまう。

美羽は口調からも分かる通りなかなか個性的なファッションセンスをしている。この時間にその歳でゴスロリ着てる人間いないと思うが。

「いや、その歳でこの時間にそんな肩も腹も脚も露出してる格好のやつもいないと思うけど…」

いいだろ、趣味だわ。別に出して損するものでもないし。

「そんなサバサバしてっから莉音も彼氏できないんだよ〜〜?」

「あんたもそんな歳不相応な格好してるから彼氏できないんでしょ!」

言ってて悲しくなってきた。なんでこんな真夜中にこいつとこんな話しなきゃいけないんだ。私はうっかりこいつを家にあげてしまったことにほぞを噛む。

「秒針じゃなくて?」

ちょっと上手いこと言うな。駆け出すぞ。

「沈むように〜〜〜〜!」

「こんな夜中に大声で歌うんじゃねぇ!」

「いいじゃん!私なんて夜に自分の家いたら隣の部屋からなんか女の喘ぎ声聞こえてくんのよ!歌の方が数億倍マシよ!!!」

美羽が急にものすごい勢いで反論してくる。だから最近しょっちゅう私の家に逃げ込んできてたのか…。

「ご愁傷様です(笑)」

「笑ってんじゃないわよ!」

「いや笑、ほんとに笑、かわいそうだなって笑」

「めちゃめちゃ笑ってんじゃないの!えぇそうですよ、私は28歳彼氏ナシ経験ナシの一般OLですよ!夜中に一人で悲しくYouTube見ててすみませんね!!!」

美羽がフリルをものすごい勢いで振り回しながら自虐していく。やめろ、それは私にも刺さる。

「なによそんな大声でお隣さんはお楽しみですね!私も対抗してやろうかしら!!?」

「美羽が一人悲しく喘いだところでチーズにしか聞こえないわよどうせ。」

「クソが!!なによ、試してみる?」

そう言って美羽はスカートの裾をめくりあげる。

「やめろやめろ、そんなん見せんな痴女か?」

「誰が痴女だ!!」

そんなアホみたいなことをしていたらいつの間にかもうすっかり朝日が部屋に差し込み始めていた。

 

「あ゛〜疲れた、美羽あんた今日仕事じゃないの?」

「えぇ、もうスーツとか持ってきたからここから直接行くわ…。てか、莉音も仕事でしょ。」

「そうよ!だから早く寝たかったのにあんたが来たから寝れなかったんじゃないの!」

「あ〜責任転嫁だ!そんなことしてたらいつまで経っても嫁になれないわよ!」

「あんたもいちいちそんな軽口叩いてるからいつまで経っても王子様やってこないんでしょうが!」

「なによ!」

そう言ってまた口喧嘩。こいつといるといつもこうなるから困る。仕事遅刻するだろうが。

「早くユニコーンに乗った王子様がやってきてたくさん営んで最後にユニコーンに殺されてぇ〜〜!」

なんとも歪んだ性癖だな。

「莉音はユニコーンとずっと仲良くしててもいいのよ?」

「うっせぇ!私も殺されるっつの!」

「そんな叫んでる暇あったら早く準備しな?置いてくよ?」

あの美羽に諭されてしまった。

「はい!準備終わった!行くよ!」

そう行って私たちは眠気に抗いながら会社へと向かうのだった。

 

彼女たちの会社で、二人がいつも眠そうに一緒に来るのを見て社員たちが関係を訝しんでいるのはまた別のお話。

 

 

〜あとがき〜

どうも、さすがに28歳女性の一人称視点はきついよ。ひらららです。

なんだかいつもと全然趣向が違う物語になった。こんなはずじゃなかったんですけどね。二人が思ったより拗れてたのがよくない。まぁ収まるところに収まったんでいいんじゃないかとは思ってます。

久々に物語書いたけどなんか久々すぎて全然しっくり来てない。このお話もそんなに自分が納得できたものじゃないので感覚を取り戻したいですね。せっかく春休み暇ですし。

というわけで次回作にご期待ください!次は普通の恋愛を綴りたいと言うお気持ちです。

 

そう言えばですけど二人の名前、莉音と美羽はそれぞれ僕の中では「りね」と「みわ」です。「りおん」と「みう」はなんか前者より若々しいかな…って感じたっていうちょっと残酷な選び方しました。