ひららら

いろいろ言う

あと一年が待ち遠しくて

「はい、じゃあ授業を始めまーす。」

パソコンの画面から先生の声が聞こえる。はぁ…。全く、なんでこんなご時世でも授業は普通に行われんだよ。どうせ習ったことを活用する社会なんてもう訪れそうもないのによ。

俺の名前は…なんてどうでもいいか。とりあえずちょうどこの春から高校一年生のありふれた男だ。まぁ、高校生って言ってもこんなウイルスが蔓延しまくってるせいで少なくとも今後一年はオンラインでの授業が決定してるけど。ていうかもう高校に足を運ぶ機会は二度とない気もするが。そんなわけで俺が晴れて合格した高校には受験以来行くこともなく。入学式などもなかったのでクラスメートの顔すらわからない。オンラインで自己紹介をする予定だったが誰かの保護者がプライバシーがなんたらかんたらと苦情を言ったために今年は匿名での授業参加になったらしい。まぁ名前を知ってようが知らないでようがどうせあと一年会う機会なんてないんだからどうでもいいっちゃどうでもいいと思う。なんなら二度と会うことはない可能性の方が高いとまで思ってる。だから不必要に個人情報を公開するのは得策ではないかなっていう持論だ。

…そう、思ってたんだけどなぁ。

 

「…この二次関数の頂点は原点であるから……」

数学の先生の声が右から左へと流れていく。一応教科書は開いているがノートなんぞ買ってもない。目はパソコン上の黒板に向いているが正直全然頭に入ってこない。これが教室だったら多少は集中できるのかなとも思うがよく考えたら中学時代も別に呑気に寝まくってたのであんまり変わらないかもしれない。二次関数のグラフが描けたところでウイルスの排除に繋がるわけないんだからこんなの勉強しても意味なさそうなんだがな。同じ画面を見てる名前も顔も知らないクラスメートたちは真面目に話を聞いてるのだろうか。そんなことを思いながら俺は下に凸とか言うよく分からない言い方の放物線に目と鼻と髪を描き加える。なかなかいい出来だな。そんなことを思っていたところ。

「こら!君なにをしてるんだ!!」

突然画面の向こうの先生から怒られた。なんだ?この部屋には監視カメラでも付いてるのか??と一瞬思ったがそんなはずはなく。狭いパソコンの画面の中には先生の姿ともう一人、クラスメートであろう女子の顔が写っていた。ツインテールでちゃんと言われた通り制服も着ている。俺のようなパジャマで受けている人間とは大違いの真面目そうな人だ。ぱっちり目が合う。誤操作でもしたのだろうか?

「あ…すみまs」

彼女は謝罪の言葉も言い終わらないうちに画面から消えてしまった。

「えぇ…こういうこともあるので生徒たちはくれぐれも画面内の設定などはいじらないように。」

先生からの注意が入った。俺にはそんな言葉、一つも耳に入らなかったが。

彼女、俺と同じクラスなのか?まぁ同じ授業を受けていたということはそういうことになるわけだが。彼女の顔は俺の目には二秒くらいしか認識されなかったがそれだけで十分わかった。俺はどうも彼女に恋をしてしまったらしい。一目惚れってやつだ。あの慌てふためく顔や女子の平均よりも少し低いくらいの声、お世辞にもおしゃれとは言えないあの制服の着こなし。何を取っても彼女は美しかった。

「はい、じゃあこれで授業を終わります。」

画面の向こうの先生の声がかろうじて耳に届く。だが俺の脳内からは放物線の存在なんぞ消え去ってさっき見た女子の顔と声しか残っていなかった。

授業が終わってパソコンを閉じる。俺は考える。彼女とどう仲良くなればいいんだ…?

まず仲良くなる以前に接点を持とうにも名前もわからない。住んでる場所もわからない。クラスが同じってことは確かだがクラス全員の名前と顔を知らないんだから意味のない情報だ。となるとやっぱ一年後、普通に授業が学校で始まるのを待つしかないのか…?

可笑しな話である。ついさっきまでこの社会はもう滅亡してもう高校に足を運ぶことなんてないし特段行こうとも思ってなかったのにちょっとクラスメートの顔を見ただけで世界平和を望むようになってしまった。まさか高校に行きたいななんて思う日が来るとは。早くさっきの彼女の顔をリアルで見て、そして改めて恋に落ちたいな。そして、今度はちゃんと名前も知って隣を歩きたいな。

俺はこんな絶望しかない世の中なのに、あと一年で平和が帰ってくることを心の底から望んだ。

一年後が待ち遠しい。そんなことを思いながらいつの間にか俺は二次関数でどうやったらウイルスを倒せるか考えるようになってしまった。

 

〜あとがき〜

どうも。小説家になる気はありません。ひらららです。今回の小説の初期プロットはこんな感じでした。

「ウイルスが蔓延しまくった世界、オンライン授業を受ける高校一年生が主人公。画面共有のミスで顔が写ってしまった名前も知らない女の子に恋に落ちる。」

まあほとんどこの大筋からは離れてないので偉いですね。及第点です。ま、書き終わった後読み返したら「こんな苦情を言う保護者存在するのか?」とか「なんでパソコン持ってんのにSNSでクラスメートたちは繋がらないんだ?」とか「この男の子軽々しく恋に落ちすぎじゃない?」とか「話の落とし方が雑すぎじゃない?」とか思ってしまったわけですが。まぁ別に僕は小説家じゃなくただの一般大学生なので許してほしい。いつもは皆さんご存知の通り脈絡のないエッセイ的なものしか書いてないんだから急に小説書こうと思い立ったところでそりゃこんな駄作しかできないよ。というわけでどうでしたか?まぁ2000字もないくらいのめっちゃ短い小説だし続きも書く気はないので軽く読み流してくれたと思います。ちなみに裏話を言うとこの主人公の子、名前は「叶(きょう)」っていう設定があったんですが別に名前出す必要ないなって思って消しました。ごめんね叶くん。

じゃあ今日はそんなところで!あなたたちもオンライン授業で見かけた人に一目惚れするかもしれませんよ??