ひららら

いろいろ言う

餞別

「よぉマモル!今日もがんばってんな~!」

同僚にそう声をかけられた。俺の名前はマモル。まぁどこにでもいるようなありふれた20代の男だ。

そんなに頭もよくなかった俺は高校を落第すれすれで卒業してからは元ラグビー部という圧倒的な筋力を武器に家大工への道を志した。しかしあえなく撃沈。ただまぁ俺にパソコンなんて扱う高尚な職業ができるわけもなくなんとか転がり込んだのがとある土木業者だ。そこで俺は日々いろんなところで重機を扱ったりあるいは筋肉を使ったりしてガンガン作業をしてったってわけだ。18のころからこの職業に携わり続けてはや10年。今では先輩とも後輩とも良好な関係も築けているしなんなら妻までもらっている。まぁ何とも恵まれた人生だ。

そんなこんなで今は地下鉄の路線の開削工事をしている。ガンガン地中を掘り進めているので気分はもうモグラだ。何億個の岩だか石だかを砕いてきたかもわからない。ていうか石と岩の違いってなんなんだろうな。頭の悪い俺にしてはかなり頭のいい疑問だ。帰ったら妻に聞こう。

「おーいマモル!次はこっちを頼む!!」

「うぃっす!!」

しばしどうでもいいことを考えていたら先輩から命令を下されてしまった。自分の頭上では車が颯爽と走り抜けてるんだろうなぁなんてまたしてもどうでもいいことを考えながら俺は自分の筋肉を使って汗水たらしながら未開の地を掘り進める。

 

「というわけで本日もお疲れ様。明日も安全第一に頑張りましょう。」

「うぇい!!」

チーフの堅苦しい言葉に俺らは威勢よく適当に答える。こういうところは高校時代から変わっていない。いいことだか悪いことだか。

「おいマモル~今日飲み行かねーか?」

同僚にこう誘われる。しかし俺は断る。

「あぁ~すまん!今日金曜だろ?少なくとも金曜は妻のご飯食べるって決めてるんだ。また今度な!」

「おいおい良い夫かよ?おう!また今度な!奥さんの手料理たんと味わってやれ~?」

そんなことを言われたがお誘いを断ってもそんないい顔で了承してくれるこいつもなかなかいい男である。職業柄出会いは少ないかもしれないがいい女と結婚してほしいものだ。

そういえば俺が妻と出会ったのはいつだっけなぁと歩きながらふと考えてみる。

3年前の春。俺はえらく僻地にできた大学への道路の開削という工事を割り当てられた。最初にその大学に挨拶をしに行ったのだがそのとき、たまたますれ違いざまに挨拶をしたのが出会いだった覚えがある。彼女に言い渡された教室への行き方を聞いたのだ。しかし、彼女もその大学へはその年に来たらしく、あんまり構造もよく理解していなかったようで二人で大学内を右往左往したものだ。それからはなんだかんだで仲良くなり、少しの付き合いを経て2年前に結婚した。

彼女は大学でなんだったかな…?詳しくは知らないがカタカナだらけのなんかを教えているらしい。少なくとも俺のような肉体業とは真逆の仕事だ。学生に興味を持ってもらうために…と言って家からフライパンやら調味料やらを持って行ってたから調理系の何かを教えているのかもしれない。

そんな思い出話に一人で勝手に陶酔してたらいつの間にかもう家の最寄り駅である。ここからは歩きだ。

最近はより一層家庭科だか何だかの授業に精を出しているらしく同じ分野の教授と協力して俺には到底理解できないような面白いことを画策しているらしい。シリアルがなんだかとか言っていた。これまたおいしそうである。家では最近毎日なかなか豪勢な料理をふるまってくれる。ロールキャベツにカレーライス、ステーキなんてのもあった。怪しげな調味料がキッチンにあるのを見かけたがまぁそれがこのおいしさのスパイスだろうのでその不可解な色については見なかったことにしている。こんな妻のおかげで俺も毎日味気ないモグラみたいな石砕きに精を出せるものである。

 

そんなことを考えていると我が家にご到着。

「ただいま~!今日も疲れた~~!」

俺は妻にこう言って帰宅の報告をした。

「おかえりなさい!ちゃんと今日も安全第一にお仕事できた?サイバーじゃなくても、セキュリティ管理は大事だからね!!」

愛すべき妻___ほごちゃんはこう返してくれた。なんで急にサイダーなんて美味しい飲み物が出てきたかは知らないが、いつだって俺の心配をしてくれるほごちゃんは最強!だ。

そんなことを考えながら、俺は今日もおいしそうな晩ごはんの匂いにつられてリビングへと急ぎ足で向かうのだった。

 

 

 

~あとがき~

どうも。いわゆる二次創作を久しぶりにやってみました。ひらららです。

僕の通う大学には1年次必修科目としてネット上での危険から身を守る術とか何とかを学ぶ授業があります。そんなお堅い授業に登場してくるのが我らがほごちゃんです。彼女は美味しそうなのか不味そうなのかよく分からない料理を僕たちにふるまってくれる癒しキャラクターです。

そんな彼女ですがなぜか今年の学部1年生に謎の人気を誇っています。いつの間にか彼女の二次創作がTLで活発化してました。怖いですね。まぁ僕もそんなことを言いながらこんな文章を書いているのですが。彼女とももう今日でお別れなのでね。はなむけです。餞別です。彼女への。これからも毎年やってくるうるさい新米大学生にまたネットの怖さとか何とかを教えてあげるのでしょう。大変そうですが頑張ってほしいですね。

というわけで今回はこの辺で。サイバーセキュリティ基礎論最強!