ひららら

いろいろ言う

ハルメナ姫とキルック王子の優雅な新婚生活

 ここはγ国の王族が住まうお城。今日は城下にたくさんの人が押しかけている。

「ハルメナ姫!ご結婚おめでとうございます!!」

「キルック様とどうか末永くお幸せに!!」

民衆はお城へそんな声を届ける。そう、何を隠そう今日はγ国の姫、ハルメナ=ダムが同じくγ国の上流貴族、キルック=アドブと結婚するのだ。

ハルメナ姫はかわいらしい笑顔を民衆に見せる。そして彼らに告げる。

「皆様、今日は私たちの祝福のために集まってくれてありがとうございます。私もキルック様のような素晴らしいお方と出会えてとても嬉しく思っております。これから二人で、この国のますますの発展に貢献させていただきます。どうか、皆様にも幸福があらん事を。」

ハルメナ姫は宗教にも造詣が深く、いつも民衆にこう語りかけて話を終える。

「キルック様…いや、もう王子か、キルック王子ともご対面したいなぁ。」

集まった民衆のいくらかはこんな声をこぼすが、結局王子は現れずじまいで式典は終わってしまった。

 

その日の夕方。新婚の二人は部屋で話をしていた。

「なぁ…ハルメナ?」

「なぁに、キルック様?」

ハルメナはいつものかわいらしい笑顔をキルックに振りまく。

「結婚する前にも確認したんだが、申し訳ない、もう一度聞いてもいいか?」

「えぇ、なんでもいいですわ。」

「…ほんとに、私はずっとこの部屋から出てはいけないのか?いや、もちろんお手洗いや食事、家族のもとへの帰省が例外なことは承知だがそれでも…。」

ハルメナはキルックの質問を遮るようにして答える。

「えぇ、もちろんですわ?家族と付き添いの執事、それに私以外との交流は断っていただきますようお願い申し上げております。無論、家族と会うときは私もしくは私の付き添いがあなたに同伴いたします。」

キルックは疲弊しきった顔で答える。

「なんでそこまで私を束縛するんだ…?いや、確かにお付き合いしているときからやけに監視のようなものをされている気がしていたが…。」

「だってキルック様は私の婚約者じゃないですか?私以外の者との交流なんてご法度ですのよ。当然です。結婚する以前はまだお付き合いの段階でしたので私の付き添い5人による監視にとどめておりましたが、もう結婚いたしましたし当然のことでしょう?」

そう言ってハルメナは話を進める。

「これから、ずっと私だけを見ててくださいね?」

彼女はにこやかな笑顔をキルックに向ける。キルックはあぁ…と小さくうなずく。

キルックはまだ知らなかった。ハルメナの狂気を…。

 

2か月後。

キルックは一日3回の食事と数回のお手洗い以外で部屋を出ることはなかった。公務などは書類仕事ばかりで城外に出ることなんて一回もなかった。ハルメナに聞くと、

「私たちがうまくやっておりますので大丈夫ですよ。」

とのことだが…。彼がこの2か月で話した相手はハルメナただ一人だった。付き添いの人との会話は文字で行われ、さらに顔すらわからない。キルックはこの2か月ハルメナの顔しか人を認識していないのだ。

キルックはハルメナに願う。

「なぁ…久しぶりに、家族に会いたいな、いいかな?」

ハルメナは答える。

「えぇ!もちろんいいですわ。今すぐにご用意いたしましょう!」

キルックは安堵する。このままじゃ家族にすら会えないと思ったが、さすがにそんなことはなかったらしい。キルックは慌てて準備をする。久しぶりの、外だ。

 

甘かった。キルックが部屋から出ようとするとハルメナが言う。

「あ、少しお待ちください。キルック様のご実家までは目隠しをしていただきますわ。」

 

その後。キルックはいつもより時間がかかるな、と思いながらも何も見えないからか、と納得しながら馬車に揺られる。

「キルック様、ご到着いたしました。家の中までお連れ致しますので。」

キルックは今、感動している。ハルメナの束縛からまぁ一時的にでも逃れ、家族とつかの間の幸せを楽しむことができるのだ。ドアを開ける音がする。懐かしい家の匂いだ。…?少し違和感もあるが。

「お待たせいたしました。いま、目隠しをお取りいたします。」

おや…?ほんとにここに家族がいるのだろうか。やけに静かだ。そしてキルックは目隠しから解放され、2か月ぶりの家族との面会を果たそうとした。

 

 

 

いつの間にか家は大改装をしたようだ。壁も床も真っ赤である。それに家族たちは確かに目の前にいるが、急に性格が変わったのだろうか、無口である。いくらか顔もやせ細ったようだ。それに身体もやせ細ったようである。というか視認できない。

キルックが見ることができたのは、愛する家族の首の斬り落とされた無残な姿だけだった。

 

「キルック様?キルック様!?」

キルックが目を開けると、そこはいつも通りのハルメナと二人だけの部屋だった。部屋…?そんなもんじゃない、監獄だ。

「あぁ、よかったですわ…。急にご実家で倒れたと聞いた時にはもう心配で…」

「私の家族は!?母上は、父上は、きょうだいに一体何が…?」

キルックは取り乱しながらハルメナに問う。

「何…ってなにがですの?面会できたのではないですか?」

「できてない!家族はもう…帰らぬ人となっていた。」

「え…?言ってることがよく分かりませんわ。別にお亡くなりになられていても面会は可能じゃないですの?」

「は…?何を言ってるんだ…?」

キルックは絶句する。

「だいたい…この国でもうちゃんと喋れる人間なんて私とキルック様、それに私たちの付き添い2名だけですのよ。何を今更…?」

「は…国民は?城下の者たちは!?」

キルックはもうハルメナを怒鳴り倒す勢いで聞く。

「国民の皆様は今もお家で静かに私たちの幸福を祈ってることだと思いますわ!私が兵に民衆をそうするように伝えましたもの!」

ハルメナは笑顔で答える。

「じゃあ…この国は…」

「そうですわ!私たち二人のものですわ!ずっと二人で末永く愛し合いましょうね!!国民の皆様もきっと幸福ですわよ…。」

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…」

キルックは衝動のままに叫んで部屋から逃げ出そうとする。ドアが開かない。

「なんで外へ出ようとするんですの?先ほど、この部屋に調理場からの直通輸送装置とお手洗いを取り付けましたわ。もうこの部屋から出る必要はないと思うのでドアも接着させていただきました!」

「……」

キルックはもう何もしゃべらない。いや、しゃべれない。

 

 

 

 

「さぁ、私と二人だけで、永遠に一緒にいましょう?」

 

 

 

【以下、β国の歴史雑誌より引用】

γ国は、はるか昔、我が国と隣接したところにあったと言われる国家である。つい最近まで発見されていなかったが、森の奥深くまで調査チームが潜入を続けたところ、多くの家とそして豪華な城の跡が発見された。驚くべきは、その家の中である。どの家にも、首を切り落とされたであろう痕跡のある遺体、骨が発見されるのだ。すべての家で、である。また、鎧を装備していたであろう兵士たちの亡骸が大量に川に沈んでいた。入水自殺だと思われる。

その一方で城の中には2つの遺体があったが、これらはベッドの上で安らかに放置されていたものと考えられるため、老衰で死んだのであろう。調理場が近いところであったため、シェフであったと推測できるがこの2名以外の遺体は見つかっておらず、他の城の住民の行方は不明である。

また、城の中には堅固に固められたドアがありいま、開錠が進められている。このドアを開けることができたらγ国の研究も進むかもしれないと期待がされている。

 

 

これから約1か月後。

β国の調査チームはドアを開けることに成功し、2名の遺体を発見した。

うち1名は女性でもう1名に寄り添うような形で死んでいた。顔の骨の様子を見るに、笑顔で亡くなっていると推測される。

もう1名は男性。こちらは対照的に疲れ切った、恐怖におののいた顔である。鑑定の結果、女性のほうが男性より20年ほど長く生きていたことが明らかになった。その後、当然だが調査チームはなぜドアが強固に閉じられていたか、なぜ20年もの間があったのにもかかわらず女性は男性に寄り添っていたかを疑問に思ったがだれも解決することができなかった。

 

もし、ハルメナがいたらこう言うであろう。

「だって、キルック様と永遠に共にいるって、決めましたもの。」

 

 

 

~あとがき~

どうも。慣れない舞台設定+慣れない三人称+慣れないバッドエンドだったし書きながら僕が怖くなりました。ひらららです。これ深夜3時に一人で書いてるんですよ。僕の気持ちもわかってほしい。めっちゃ怖い。お化け屋敷苦手な人間にこんなの書かせないでよ。というわけで今回はメンヘラチックなお話を書いてみました。無自覚なタイプなので一番怖いですね。近くにいたら怖いです。ちなみに裏設定ですが本編のあと二人はほんとに二人っきりで余生を過ごします。期間はまぁ言いませんが数十年単位です。キルック、何回死のうと思ったんでしょうね。残念ながら死のうと思っても部屋には死なさてくれるようなものはなかったので結局老衰を待ったわけですけど。死にたいのに死ねないのが一番地獄だと思います。

というわけで今日はこの辺で。実は二人の名前にはある秘密があるのですがそれはこの下に書いておくので気になる人は自分で考えてみるもよし、見てみるもよしです。まぁ、正直確実にわからないと思いますけどね…。それでは!

 

 

 

 

 

 

 

 

~姫と王子のお名前の秘密~

ハルメナ=ダム

harmena dam

並びかえると

menhera mad

メンヘラ 狂気

 

王子

キルック=アドブ

kluc adb

並びかえると

luck bad

悲運

 

だったりします。