ひららら

いろいろ言う

花火

〜まえがき〜

どうも。まえがきって初めて書きますね。ひらららです。まぁまえがきから書き始めたからと言って特に何かあるわけでもないです。いつも通り普通の小説です。でも久しぶりに書くので書き方忘れてるかもしれません。ていうか普通のブログも書きたい。最近物語ばっかな気がする。さて、今回は短編集です。まぁいつも短編なのでそれより短い物語たちをいくつか書きたいと思ってます。タイトル通りどれも花火を背景とした物語になる予定です。少なくともプロットではそうなりました。

僕は後日談って言うのが物語の中でとても好きです。エピローグとかね。あと前日譚も同様。だから、自分の物語にもそういうのを書きたいなって思いました。というわけで久しぶりにうちの子たちに登場してもらいました。どうぞ、彼らのそれぞれの物語をよければもう一度思い返してからこの短編たちを読んであげてくださいな。それでは。彼らのその後、あるいはそれ以前をお楽しみください!

 

 

〈結城さんと佐倉くんの場合〉

花火なんて大好きだ。

全く、あの夏の風物詩。最高だ。毎年毎年課題は8月24日に慌ててやる私だけど(最近は夏休み31日までじゃないんだよ?ひどくない??)、花火大会だけは欠かさず行っている。家族とでも友達とでも、一緒に花火を見て感動する、なんて素晴らしい夏なのだろう。それは無事高校生となった今でも変わらない。

それに!今年は大好きな人と一緒に見れる予定なんだ!

そして今日がその花火大会の日。

佐倉くん、ちゃんと浴衣着て来てくれるかなぁ…。

 

というわけで待ち合わせ時間の5分前。

私は家で優雅に着こなしてきた浴衣姿で待ち合わせの公園のベンチに座っていた。…訂正。優雅には着こなせなかった。お母さんに頑張ってもらいました。ありがとうございます。来年までには自分で着れるようにしたいです。

そんな反省をしているうちに。

「お待たせ、ごめんね待った?」

かっこいい声がする。私は緊張しながら振り向く。

「ううん、ぜんぜぜぜぜぜぜぜぜんんんんん待ってななななないけど????どど???」

私はかわいらしく可憐に振り向こうとするもあまりの佐倉くんのかっこよさとかわいさに自分を制御できない。嘘でしょ。なんでそんなに似合ってるの。私泣いちゃう。

「…大丈夫?」

「だ、だいじょうぶ……。浴衣、似合ってるね。」

「そう?こういうの着るのたぶん小学生以来とかだけど似合ってるのならよかった!結城さんもとっても可愛くなってるよ!」

は〜〜私はなんで幸せ者なんだ。こんな可愛い子に可愛いと言われてしまった。私の魂が打ち上げられてしまう。

「それじゃ、行こっか。」

「うん!」

私はそう返事して、佐倉くんの横を歩く。

 

さて、私と佐倉くんはまぁ卒業式の日からいわゆるお付き合いというものをしているのですが。高校は違えども、途中までは一緒の道だから朝はそこまで一緒に行って、帰りも時間が合えばそこで待ち合わせして帰るのですが。付き合って早数ヶ月、いまだに手を繋いだことがありません。ほんとに付き合ってるの?って友達にも言われました。友達には彼氏ができたことは秘密にしてたのですがなぜかバレました。顔には出にくいと思っているのになんでだろうね。ってまぁそんなことはどうでもよくて!とにかく私は手を繋ぎたい!今日の目標は花火を一緒に楽しんでそして手を繋ぐこと!!

 

「わぁ〜綺麗だねぇ。」

「ねぇ、とっても綺麗、わ!すごい大きい!」

ま、まぁ第一目標は一緒に花火を見ることだから?というわけで私はイカ焼きを、佐倉くんはりんご飴を片手に座って盛大に打ち上げられている花火を見ている。私もりんご飴とかいう可愛いものにしたかったけど食欲には勝てなかった。イカ焼き最高。ちなみに私は花火と同じくらいちびちびとりんご飴を食べている佐倉くんに夢中になっている。かわいいね。

「ねぇ、結城さん。」

「ん〜?」

私は二つのものに夢中になっていたのでついつい返答が適当になってしまう。

「少し歩こうよ。」

「え、でもまだ花火終わってないよ?」

「歩きながらでも見れるから、さ。」

へぇ。佐倉くんがこうまでお願いしてくるのは珍しい。たまに二人でお出かけするけど基本的に私が振り回しているからかもしれない。

「ん。いいよ!ただこのイカ焼きを食べてからね!」

食欲全開。私の高校に入ってからの座右の銘だ。ちなみに体重は……って誰が言うか!

 

さて、そんなこんなで私たちは花火を眺めながらのはほんと歩いています。私は花火をぼーっと眺めています。もちろん佐倉くんの側にある左手は常に開放状態。いつでもばっちこい!

とか思っていたら。

「ねぇ結城さん。」

「んー?」

私は首を花火から佐倉くんの方へと向ける。

「花火ってさ、儚いよね。とっても綺麗な姿を見せてくれたあと、そそくさと消えてっちゃう。」

そんな文学的なことを告げられる。私には到底思い浮かばない表現だ。ちなみに聞くところによると国語の期末考査は80点だったらしい。ちなみに私は48点だった。悲しい。佐倉くんは話を続ける。

「思ったんだ。今はたとえ元気でも花火みたいに何でも、儚く消えていっちゃうのかなって。」

「そ、そんな悲しいこと言わないでよ…。」

私は佐倉くんと一緒にいたいんだから。

「もしかしたら、結城さんもいなくなっちゃうかもしれない。」

「そ、そんなことない!わ、私はず、ずっと隣にいるから…。」

柄にも無いことを言ってしまう。恥ずかしいなぁ。

「そう?でも心配だなぁ。」

そう言って佐倉くんは微笑みながらそっと私の手を握ってきた。

 

………え?

「心配だから、逃げないように捕まえとくんだよ。」

そう言いながら佐倉くんはその真っ赤な顔を隠すように花火の方に顔を逸らす。かわいいじゃん。

「そう?じゃあ私も佐倉くんが逃げないように捕まえとこっかな!」

私も佐倉くんの手を握り返す。かわいいとは言いつつもやっぱり男の子だ。手が大きい。そして私も花火の方へと顔を向ける。

「花火、綺麗だね。」

そう私が言うと佐倉くんは答える。

「うん、とっても綺麗。でも俺的には結城さんの方がとっても綺麗だけどね?」

佐倉くんは微笑みながらこっちを向いてくる。もう顔は赤くなかった。かわりに私の顔のほうにその赤さは移ってきたらしい。

「い、いや!花火には勝てない!」

そう私が慌てながら答えると佐倉くんはまた微笑む。かわいい。

そんなことを話しながら私たちは、手を繋ぎながら夜の空に咲く満開の花火を満喫したのでした。

 

 

あっ!あともう一つ言い忘れてた!この花火大会の後、私たちは学校に行くまでの道は毎日手を繋ぐようになりました!どっか行っちゃったら困るからね!それでは!

 

 

〈叶くんの場合〉

さて、一応夏休みらしい。

と言っても、家から出ずに授業はパソコンの中だけで行われるんだからずっと夏休みみたいなもんだったけどな。相変わらず世界はウイルスに翻弄されまくり。俺も二次関数でいかに撃退するか考えてみたけどイマイチ上手くいかない。あたりまえだ。最近は三角比も習ったのでそっちの線から考えている。

まぁ、こんな状況だから当然毎年のように打ち上げられていた花火も今年は中止らしい。普段はめんどくさいので見に行かなかったがいざ無いとなるとやはり少し寂しいものがある。

ん?この前の見ず知らずの女子との関係?そんなの何の進展もなし。あれ以来みんなもパソコンの扱いに慣れてきたのか、だれも事故することなく授業は進んでる。少なくとも俺が起きてる間は。だからあれ以来あの女子の顔も見れずじまいだ。だからと言って好きな気持ちが薄れたわけじゃ無いけどな。

はあ…。もし、もしも今ウイルスが蔓延していなくて普通に学校へ登校することができていたら。彼女とも仲良くなれていたのかなぁ。もう数百回はこんな妄想を繰り広げている。家に閉じこもってると暇なんだからしょうがない。

彼女と仲良くなれてたら花火大会ももしかしたら二人で行けていたのかもしれない。そして、二人でチョコバナナとかりんご飴とか屋台を冷やかしながら、河川敷に座って綺麗な花火を眺められたのかもしれない。きっと綺麗な花火を見る彼女もとても綺麗なんだろう。浴衣姿の彼女はとても愛らしくて、でも少し大人なそんな姿なんだろう。そして花火を見て彼女は綺麗だね〜とか言いながら微笑むんだ。そして、そしてあわよくばその帰りにでも俺が告白して…。

なんて、なるわけないか。それでもせっかく会えないんだから夢だけでも見させてほしい。最近、化学の授業で先生が言ってた気がする。花火の色は炎色反応とやらによって生まれたりするらしい。そんな化学の知識が花火程度に役立てられるのなら、俺の数学や現代社会の知識もウイルス撲滅に役立てることができるんじゃないかな。そう考えるとまたやる気が出てきた。

俺は机に向かって真面目に考える。三角比と日本国憲法を使って、なんとかしてウイルスを消し去れないものか。そして、いつか彼女と花火を見に行けるようになった時に言うんだ。

「この花火なんかより、君のほうが数百倍綺麗だよ。」

って。

 

…いや、やっぱり無し。ダサい気がする。俺は三角比と日本国憲法を一旦端に追いやって花火大会用のもっと粋な告白フレーズを考える。

あぁ、早く会いたいなぁ。そんなことを考える引きこもりの夏。俺の頭の中には満開の花火がいくつも咲き誇っていた。

 

 

〈丈くんと美波ちゃんの場合〉

今年の夏は暑い。我が家でもエアコンはフル稼働だ。ん…って思ったら何故か消されている。暑いんだからエアコンはつけるべき。リモコンを手に取って電源ボタンを押そうとしたそのとき。

「な・に・を・し・て・る・の・か・な・?」

背後から女の声が。俺は少しずつ振り返って答える。

「い、いや美波さん……。少し暑いので冷房をば…ね?」

「そんなことしてたら電気代がとんでもないことになるでしょ!丈くんも扇風機で我慢する!」

俺と美波はいま大学3年生。高校の頃から付き合っていたが晴れて今年の春から同棲する運びとなったのだが、昔の美波はこんなに強い口調でものを言わなかったが大学に入ってからサークルの影響か、少し元気に話すようになった。おかげで俺はこの数ヶ月怒られてばっかりだ。

「はい…ごめんなさい……。」

そう言って俺は美波の隣に座って扇風機の風を浴びる。手を繋ぐ。

「ど、どうして手まで…。」

美波は顔を赤らめて言う。こういう少しのことで口下手になって照れるようなところは高校時代と変わってないんだけどな。かわいい。

「いいじゃん、繋ぎたくなったの〜。」

俺は適当にはぐらかして手をより握る。美波も握り返してくれたようでよかった。

「それはそうと今日の夜花火大会が近くであるらしいよ?」

俺は言う。昨日サークルの友達から言われたのを思い出したのだ。

「あ〜それ聞いた私も。…一緒に行く?」

美波は躊躇いがちに聞いてくる。

「ん〜ちゃんと公園に行ってみるのもいいけど、」

「けど?」

「ここから見えるらしいから、二人だけでここでのんびり見ないか?」

俺は提案する。二人だけでいたかったっていうのと外は暑いからって理由だ。

「ん〜、いいと思う。外は暑いからね。」

美波も俺と同じことを言う。だったらエアコンつけてもいいんじゃ…ということは言わずに俺は言う。

「よし!じゃあ夜に備えてお酒とおつまみ買いに行くぞ〜!」

俺は繋いだ手を一気に持ち上げて美波と一緒にスーパーへと行く気持ちを固めた。しかし。

「今バイトもそこまでしてないんだからそんなお金ないでしょ?今あるビールと枝豆で我慢しときなさい?」

「はい…」

俺は再び扇風機の前へと戻る。しばらく美波と手を繋いだままひたすら風を浴び続けた。

 

そんなこんなで夜。

花火が上がる。

「わ〜綺麗!」

さすがの美波も花火には感動するようで、いつになくはしゃいでいる。

「ふっ花火よりもお前の方が綺麗だぜ。」

俺はイケボでこんなことを言うも無視される。5年も付き合ってきたらこうもなってしまうのか。まぁ信頼の無言ということにして俺はビールを飲む。

「そういえば、花火二人で見るのって初めてか?」

俺は聞く。

「確かに、今までは日にちが合わなかったり雨で中止になったりでなんだかんだ見れなかったね。」

美波は続けて言う。

「でも、今二人きりで花火見れて、とっても幸せだよ。」

…………。そんなことを言われるなんて、俺のほうが幸せである。俺はおもむろに美波を抱きしめる。

「えっえっちょっと……。」

美波はとたんに慌てて静かになる。全く、そういうところは昔から変わってないんだからかわいい。

「俺も幸せだよ。好き。これからもよろしくね。」

俺は美波を抱きしめながらそんなことを言う。

「…………。うん、私も。よろしくね。」

二人きりの部屋の中で俺と美波はその後もずっと手を繋ぎながら夜空の大輪の花を眺めていた。

 

 

「ちょっと!なんでビール3本も開けてるのよ!2本までって言ったでしょ!?」

「ごめんなさい…。」

翌朝、起きて5秒後にこんな会話をしたのは秘密である。

 

 

〈ハルメナとキルックの場合〉

これはハルメナ姫とキルック公爵が結婚する少し前のお話。まだ二人は交際という関係にありました。キルックは姫に会うためにお城を訪れました。

「ハルメナ、やあ。」

「キルック様!お待ちしておりましたわ!ちょうどいらっしゃる頃だと思ってましたの!」

ハルメナはそう言って続ける。

「今日は城の庭に珍しいお花が咲いたと付き添いから聞きましたの。一緒にご覧になりませんか?」

「おお、ぜひ見たいな。」

そう言って二人はハルメナの部屋から出て庭へと向かう。

「そういえば、ハルメナの部屋以外で二人でいるのって珍しいな。いつもはずっとハルメナの部屋に閉じ込められてるのに。」

「だって、二人きりでいたいですもの。」

「そう言ってくれると嬉しいなぁ。」

キルックはそういって微笑む。そんなことを話しながら庭へと到着する。

「紹介致しますわ、こちらが我が城の庭師さん。」

「はじめまして、ハルメナ姫とお付き合いしておりますキルックと申します。それで、珍しい花、というのは…。」

キルックはその知的好奇心を抑えられない様子で庭師に聞く。

「ああ、それでしたらこちらです。一般には「花火」と呼ばれている品種でごさいます。」

「ほう。花に火か…。なかなか面白い名前ですね。」

キルックは興味深そうにその花を眺める。

「私が先ほど調べたのでご紹介致しますわ。」

ハルメナが説明を引き継ぐ。

「こちらの「花火」ですが、数百年に一度、とある花の突然変異で生まれてくる花でして、その大きな特徴は名前からもお分かりのとおり火を出すことにありますの。なんでもこの花は枯れるときに、萎れるのではなく燃えてなくなるらしいのですわ。その美しさから花言葉は「燃え盛る愛」「情熱の愛」「永遠の愛」であり、その燃える様子を目にしたカップルは永遠に結ばれるらしいのですわ!」

「ほう…教えてくれてありがとう。ぜひ、私とハルメナでこの花が燃え盛るところを見たいものだな。」

キルックは微笑みながら言う。

「ええ!ぜひ!」

ハルメナも笑顔で答える。

キルックはその後ろで恐々とする庭師に気づくことはできなかった。

 

数日後。キルックが家で仕事をしていた時。

「失礼します。キルック様はいらっしゃいませんか!?」

慌てた様子で城の送迎係の者がドアを叩く。

「はい、いますが…。」

「ハルメナ様からすぐにいらしてくださいとの要望が…。」

「なるほど。了解した。」

そう言ってキルックはすぐに馬車へと乗り込んで城へと向かう。

「ハルメナすまない待たせた、それで用件は?」

キルックは城に着くと足早にハルメナの部屋に入って聞く。

「キルック様!よくぞいらっしゃいました!急いで庭へ向かいましょう!」

ハルメナはそう言ってキルックの手を取りながら急いで庭へと向かう。

「待て、どうして庭なんだ。」

「花火が燃えようとしているのです!ぜひ見なければ!永遠の愛を!」

そう答えたとき、ちょうど二人は庭へとたどり着いた。

「庭師!花火はまだ燃えてませんか?」

ハルメナは厳しい口調で庭師に問う。

「は、はい!間もなくだと思われます!」

そう庭師が言ったそのとき。花火は急に燃えだした。それはとても鮮やかで見る者全てを魅了するほどであった。

「まぁ!なんて綺麗ですの!」

「あぁ……とても美しい。こんなものを見たら、それは当然カップルも結ばれることだろう。もちろん、我々も。」

「キルック様…とても、光栄ですわ。」

そう言ってハルメナとキルックは美しくその生涯を終えようとする花火を眺め続けた。

 

その数ヶ月後、二人は無事結婚し、永遠の愛を誓い合うこととなったがそれはまた別のお話。

 

 

 

庭師は苦悩していた。ハルメナ姫から「花火」という超希少種の花の交配を依頼されたのだ。

「私とキルック様の愛のために必要不可欠なのです。どうか、よろしく。」

庭師は知っていた。この城で、ハルメナ姫のご期待に添えなかったものは人知れず処刑されていくことを…。それ以来、庭師は「花火」の研究に明け暮れ2ヶ月の時を経てついにその交配に成功した。

「ハルメナ様!遅くなって申し訳ありません!「花火」です!完成しました!!」

庭師はハルメナ姫に報告する。

「よくやったわ!すぐにキルック様をお呼びいたしますので庭師はいまからこの庭を綺麗にしなさい!汚すぎますわ!」

庭師はこの2ヶ月間、花火の研究に必死で庭の管理を怠っていたのである。

庭師はそこからキルックが来るまでの2時間ほとで庭をできるだけ綺麗にして二人を迎えた。

そしてキルックが帰った後。

「庭師!」

「は、はい!」

庭師はハルメナに呼び寄せられた。

「まあまだ見せられるくらいの庭になったことは評価いたしますわ。しかしそれでもまだ杜撰です。キルック様にお見せするのですからもうちょっと綺麗にしてください。それと花火が燃える兆候が見えたらすぐ私に知らせるように。」

それだけ言うとハルメナは自室へと帰っていった。

 

数日後。

庭師は庭を2ヶ月前とほぼ同じように復元していた。それに満足していたその時。花火から少し火花が飛び出た。これが花火の枯れる兆候である。庭師はハルメナに急いで連絡した。

そしてハルメナとキルックが花火を前に永遠の愛を確認し合った後。

またも庭師はハルメナに呼び出された。

「な、なんでしょう…?」

すでに庭師はここ数日の庭の整備で疲労困憊しており、さらにハルメナへの恐怖でいっぱいだった。

「あなた、私とキルック様が花火の燃えるところを見ている時、一緒にそれを見ていましたよね?」

「え?は、はい…。たいそう美しかったですが…。」

「それではいけませんわ!私とキルック様の愛が庭師に邪魔されてしまうかもしれません!あの燃える様を見たのは私とキルック様だけにしなければなりませんの!」

「え…?」

庭師は困惑する。

「というわけで庭師、あなたは今からいなくなってもらいますわ。さようなら。」

庭師は答えることができなかった。いつの間にか背後にいた兵に首を切られたからだ。

 

ハルメナとキルックが結婚するのはそれから数ヶ月後のことであったが、その頃には庭師の存在など誰の頭からも消え去っていた。

 

 

 

「花火」の花言葉はその枯れる時に燃えるといつ特徴から「燃え盛る愛」「情熱の愛」「永遠の愛」と言われる。また、その燃える時の激しさから「行き過ぎた愛」という花言葉も持っている。 【β国の論文より引用】

 

 

 

〜あとがき〜

どうも。まえがきぶりですね。ひらららです。お楽しみいただけましたか?結構長さにばらつきはありますけどまぁ大体全部2000字いかないくらいな気がするので短編でしょう。どれが好きでした?個人的にはやっぱり僕が一番愛着を持ってるのが結城さんと佐倉くんなのでそれが好きです。みんな好きですけどね。ハルメナ姫も怖いなぁとは思いますけど僕の創り出した人なので愛着はあります。

まぁというわけで僕は今までのうちの子たちもたまには復活させたいなって思ってるので是非是非楽しみにしておいてください。まえがきも書いたので今回は短めにここら辺で!では!

 

あ、ちょっとだけ裏話を。ハルメナ姫たちの時代に花火は無いだろうなぁと思ったので少し違う花火にしました。あの世界はもともとファンタジー感があるのでちょうどいいんじゃないかと思います。相変わらず姫は怖いですけどね……。

それと丈くんと美波ちゃんは前作から結構時が経った時を舞台にしたのでかなり仲良くなってます。僕も二人が幸せそうで安心しました。二人は僕の初めてのオリジナル人物たちなので思い入れも深いので……。

ハルメナ姫とキルック王子の優雅な新婚生活

 ここはγ国の王族が住まうお城。今日は城下にたくさんの人が押しかけている。

「ハルメナ姫!ご結婚おめでとうございます!!」

「キルック様とどうか末永くお幸せに!!」

民衆はお城へそんな声を届ける。そう、何を隠そう今日はγ国の姫、ハルメナ=ダムが同じくγ国の上流貴族、キルック=アドブと結婚するのだ。

ハルメナ姫はかわいらしい笑顔を民衆に見せる。そして彼らに告げる。

「皆様、今日は私たちの祝福のために集まってくれてありがとうございます。私もキルック様のような素晴らしいお方と出会えてとても嬉しく思っております。これから二人で、この国のますますの発展に貢献させていただきます。どうか、皆様にも幸福があらん事を。」

ハルメナ姫は宗教にも造詣が深く、いつも民衆にこう語りかけて話を終える。

「キルック様…いや、もう王子か、キルック王子ともご対面したいなぁ。」

集まった民衆のいくらかはこんな声をこぼすが、結局王子は現れずじまいで式典は終わってしまった。

 

その日の夕方。新婚の二人は部屋で話をしていた。

「なぁ…ハルメナ?」

「なぁに、キルック様?」

ハルメナはいつものかわいらしい笑顔をキルックに振りまく。

「結婚する前にも確認したんだが、申し訳ない、もう一度聞いてもいいか?」

「えぇ、なんでもいいですわ。」

「…ほんとに、私はずっとこの部屋から出てはいけないのか?いや、もちろんお手洗いや食事、家族のもとへの帰省が例外なことは承知だがそれでも…。」

ハルメナはキルックの質問を遮るようにして答える。

「えぇ、もちろんですわ?家族と付き添いの執事、それに私以外との交流は断っていただきますようお願い申し上げております。無論、家族と会うときは私もしくは私の付き添いがあなたに同伴いたします。」

キルックは疲弊しきった顔で答える。

「なんでそこまで私を束縛するんだ…?いや、確かにお付き合いしているときからやけに監視のようなものをされている気がしていたが…。」

「だってキルック様は私の婚約者じゃないですか?私以外の者との交流なんてご法度ですのよ。当然です。結婚する以前はまだお付き合いの段階でしたので私の付き添い5人による監視にとどめておりましたが、もう結婚いたしましたし当然のことでしょう?」

そう言ってハルメナは話を進める。

「これから、ずっと私だけを見ててくださいね?」

彼女はにこやかな笑顔をキルックに向ける。キルックはあぁ…と小さくうなずく。

キルックはまだ知らなかった。ハルメナの狂気を…。

 

2か月後。

キルックは一日3回の食事と数回のお手洗い以外で部屋を出ることはなかった。公務などは書類仕事ばかりで城外に出ることなんて一回もなかった。ハルメナに聞くと、

「私たちがうまくやっておりますので大丈夫ですよ。」

とのことだが…。彼がこの2か月で話した相手はハルメナただ一人だった。付き添いの人との会話は文字で行われ、さらに顔すらわからない。キルックはこの2か月ハルメナの顔しか人を認識していないのだ。

キルックはハルメナに願う。

「なぁ…久しぶりに、家族に会いたいな、いいかな?」

ハルメナは答える。

「えぇ!もちろんいいですわ。今すぐにご用意いたしましょう!」

キルックは安堵する。このままじゃ家族にすら会えないと思ったが、さすがにそんなことはなかったらしい。キルックは慌てて準備をする。久しぶりの、外だ。

 

甘かった。キルックが部屋から出ようとするとハルメナが言う。

「あ、少しお待ちください。キルック様のご実家までは目隠しをしていただきますわ。」

 

その後。キルックはいつもより時間がかかるな、と思いながらも何も見えないからか、と納得しながら馬車に揺られる。

「キルック様、ご到着いたしました。家の中までお連れ致しますので。」

キルックは今、感動している。ハルメナの束縛からまぁ一時的にでも逃れ、家族とつかの間の幸せを楽しむことができるのだ。ドアを開ける音がする。懐かしい家の匂いだ。…?少し違和感もあるが。

「お待たせいたしました。いま、目隠しをお取りいたします。」

おや…?ほんとにここに家族がいるのだろうか。やけに静かだ。そしてキルックは目隠しから解放され、2か月ぶりの家族との面会を果たそうとした。

 

 

 

いつの間にか家は大改装をしたようだ。壁も床も真っ赤である。それに家族たちは確かに目の前にいるが、急に性格が変わったのだろうか、無口である。いくらか顔もやせ細ったようだ。それに身体もやせ細ったようである。というか視認できない。

キルックが見ることができたのは、愛する家族の首の斬り落とされた無残な姿だけだった。

 

「キルック様?キルック様!?」

キルックが目を開けると、そこはいつも通りのハルメナと二人だけの部屋だった。部屋…?そんなもんじゃない、監獄だ。

「あぁ、よかったですわ…。急にご実家で倒れたと聞いた時にはもう心配で…」

「私の家族は!?母上は、父上は、きょうだいに一体何が…?」

キルックは取り乱しながらハルメナに問う。

「何…ってなにがですの?面会できたのではないですか?」

「できてない!家族はもう…帰らぬ人となっていた。」

「え…?言ってることがよく分かりませんわ。別にお亡くなりになられていても面会は可能じゃないですの?」

「は…?何を言ってるんだ…?」

キルックは絶句する。

「だいたい…この国でもうちゃんと喋れる人間なんて私とキルック様、それに私たちの付き添い2名だけですのよ。何を今更…?」

「は…国民は?城下の者たちは!?」

キルックはもうハルメナを怒鳴り倒す勢いで聞く。

「国民の皆様は今もお家で静かに私たちの幸福を祈ってることだと思いますわ!私が兵に民衆をそうするように伝えましたもの!」

ハルメナは笑顔で答える。

「じゃあ…この国は…」

「そうですわ!私たち二人のものですわ!ずっと二人で末永く愛し合いましょうね!!国民の皆様もきっと幸福ですわよ…。」

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…」

キルックは衝動のままに叫んで部屋から逃げ出そうとする。ドアが開かない。

「なんで外へ出ようとするんですの?先ほど、この部屋に調理場からの直通輸送装置とお手洗いを取り付けましたわ。もうこの部屋から出る必要はないと思うのでドアも接着させていただきました!」

「……」

キルックはもう何もしゃべらない。いや、しゃべれない。

 

 

 

 

「さぁ、私と二人だけで、永遠に一緒にいましょう?」

 

 

 

【以下、β国の歴史雑誌より引用】

γ国は、はるか昔、我が国と隣接したところにあったと言われる国家である。つい最近まで発見されていなかったが、森の奥深くまで調査チームが潜入を続けたところ、多くの家とそして豪華な城の跡が発見された。驚くべきは、その家の中である。どの家にも、首を切り落とされたであろう痕跡のある遺体、骨が発見されるのだ。すべての家で、である。また、鎧を装備していたであろう兵士たちの亡骸が大量に川に沈んでいた。入水自殺だと思われる。

その一方で城の中には2つの遺体があったが、これらはベッドの上で安らかに放置されていたものと考えられるため、老衰で死んだのであろう。調理場が近いところであったため、シェフであったと推測できるがこの2名以外の遺体は見つかっておらず、他の城の住民の行方は不明である。

また、城の中には堅固に固められたドアがありいま、開錠が進められている。このドアを開けることができたらγ国の研究も進むかもしれないと期待がされている。

 

 

これから約1か月後。

β国の調査チームはドアを開けることに成功し、2名の遺体を発見した。

うち1名は女性でもう1名に寄り添うような形で死んでいた。顔の骨の様子を見るに、笑顔で亡くなっていると推測される。

もう1名は男性。こちらは対照的に疲れ切った、恐怖におののいた顔である。鑑定の結果、女性のほうが男性より20年ほど長く生きていたことが明らかになった。その後、当然だが調査チームはなぜドアが強固に閉じられていたか、なぜ20年もの間があったのにもかかわらず女性は男性に寄り添っていたかを疑問に思ったがだれも解決することができなかった。

 

もし、ハルメナがいたらこう言うであろう。

「だって、キルック様と永遠に共にいるって、決めましたもの。」

 

 

 

~あとがき~

どうも。慣れない舞台設定+慣れない三人称+慣れないバッドエンドだったし書きながら僕が怖くなりました。ひらららです。これ深夜3時に一人で書いてるんですよ。僕の気持ちもわかってほしい。めっちゃ怖い。お化け屋敷苦手な人間にこんなの書かせないでよ。というわけで今回はメンヘラチックなお話を書いてみました。無自覚なタイプなので一番怖いですね。近くにいたら怖いです。ちなみに裏設定ですが本編のあと二人はほんとに二人っきりで余生を過ごします。期間はまぁ言いませんが数十年単位です。キルック、何回死のうと思ったんでしょうね。残念ながら死のうと思っても部屋には死なさてくれるようなものはなかったので結局老衰を待ったわけですけど。死にたいのに死ねないのが一番地獄だと思います。

というわけで今日はこの辺で。実は二人の名前にはある秘密があるのですがそれはこの下に書いておくので気になる人は自分で考えてみるもよし、見てみるもよしです。まぁ、正直確実にわからないと思いますけどね…。それでは!

 

 

 

 

 

 

 

 

~姫と王子のお名前の秘密~

ハルメナ=ダム

harmena dam

並びかえると

menhera mad

メンヘラ 狂気

 

王子

キルック=アドブ

kluc adb

並びかえると

luck bad

悲運

 

だったりします。

卒業文集なんて嫌いだ

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「結城さん、今日の放課後この教室に残っててね。」

私はそう先生から告げられた。

「えっなんでですか。」

そんなに怒られるようなことをした覚えはないんですけど…。

「学年であなたともう一人だけよ、卒業文集を書き終わってないの。」

おっと。痛いところを突かれてしまった。私は顔をそらしながら答える。

「あ、はい…書き上げろと、」

「そうです、金曜日までに業者さんに渡さないといけないんだから。」

「はーい…」

今日は月曜日。すなわちあと5日で書き上げなければいけないらしい。

はぁ…いつも憂鬱な月曜日の朝にさらに雲がかかっていく。

 

卒業文集なんて嫌いだ。

小学校のときからそうだ。6年生のときにアルバムに載せる文章を書けと言われたが全然鉛筆が進まない。それは鉛筆がシャーペンに変わった今でも同じだった。私の中学校では卒業記念にみんなが将来の夢だとか3年間の思い出だとかを書いてそれをまとめて文集にするらしい。全くもって困った行事だ。

将来の夢がないわけじゃない。漠然とだけどなりたいものはある。でもその夢は文集に書けるほど全力で目指してるものじゃない。

3年間の思い出がないわけじゃない。友達だってまぁそこそこはいるし修学旅行も体育会もどれも楽しかったし大切な思い出だ。でも、どれかについて書けと言われるとそれはそれでなんかしっくりこない。

はぁ…。

 

放課後。

私は教室に残って真っ白な原稿用紙と向き合う。なにも思い浮かばない。悲しい。そういえばもう一人書き終わってない人がいるとか言ってたな。誰だろう。知ってる人がいいな。私は原稿用紙をほったらかしてもう一人の居残りちゃん(居残りくんかもしれない)を待つ。

外で12月の寒い風の中頑張っている陸上部がトラックを4周ほど駆けたころ。ドアがガラガラと開く。私の心はドキドキだ。

「えっと、君がもう一人の居残りの方…?」

私は入ってきたその男子に聞かれる。正直、女子がよかったので残念である。

「う、うん。」

「君…けつしろさん?もまだ書き終わってない…みたいだな」

私の真っ白な原稿用紙を見ながら彼は自問自答。悪いな、名前しか書いてなくて。しかも読み方違うし。

「これでゆうきって読むの。全然思いつかなくて、ところで君の名前は?」

「ん、あぁ、俺は佐倉。」

佐倉くんというらしい。初めて聞く名前だ。やっぱり3年間過ごしても同学年に知らない人はいるものである。世界は広い。

「部活は?」

「サッカー部、夏で終わったけどね。」

「なんで佐倉くんは文集書き終わってないの?」

どうせあと1週間一緒にいるのだからと私は距離を詰める。これで嫌われようがあと1週間の縁なんだからどうでもいいでしょ。ちなみに私は堂々の帰宅部だ。サッカー部の5文字が眩しい。

「いやぁなんでといわれても困るけどなんか全然書くことが思いつかなくて…」

嘘つけ。お前。サッカー部だったらもう青春大満喫もいいとこだろ。私の中のサッカー部偏見は広がる一方だ。

「先生はいないの?」

私は聞かれる。

「うん、書き終わったら今週のどこかで職員室までもっていけばいいらしい。」

じゃあ家で書かせればいいじゃんとか思うかもしれないが先生も頭が固いのだ。私も不満ではある。

「へぇ。」

なんだその適当な返事は。

まぁそんなこんなで。1日目は佐倉くんと名乗るイケイケサッカー部とほんの少し親睦を深めあっただけで終わったのでした。

 

【卒業文集の進捗 0 / 400】

まだ余裕よ。

 

火曜日。

昼休みに友だちに聞いたところによるとどうも佐倉くんは本当にイケイケな中学生らしい。つらいよ。背番号10番がエースなことくらいはさすがに私も知ってるよ。確かに特に何も見てなかったけど顔もイケメンだった気がする。つらいよ。頭はそこまで良くないらしい。そこまで来たら良くあってほしかった。そして迎えた放課後。

「今日さ~うちのクラスでさ~、」

佐倉くんの一日の感想を聞かされている。何故。1日の思い出より3年間の思い出を書くためにいまこうして向かい合ってるのに。

佐倉くんのお話が4限の美術でクマくん(あだ名らしい)が彫刻刀をぶん投げた話に差し掛かった頃。

「そんなに毎日楽しそうなのになんで卒業文集ごときが書けないの?」

単刀直入。私の座右の銘である。ちなみに私の国語の評定は3だ。中の下か下の上である。

「ん~なんでだろうなぁ、なんか楽しい、朗笑できる思い出はいっぱいあるけど、それを文にしようって思うとなんか違うんだよなぁ。」

お。親近感。こんな人でもそんな繊細なところがあるのか。いや私が繊細だとは言わんけども。

「へぇ~奇遇だね。私もそんな感じなんだよね。」

今日も佐倉くんと少し仲良くなれた気がする。ちなみに国語の評定は4らしい。頭いいやん!!裏切り者!!!

 

【卒業文集の進捗 0 / 400】

ま、まぁ明日から本気出すから。

 

水曜日。

『3年間をふりかえって』

私はタイトルを決める。ありきたりである。向かいに座る佐倉くんのタイトルを見てみる。

『3年間の思い出』

同レベルである。国語の先生が泣いてもしょうがない。

「ねぇ、結城さんって彼氏いる?」

突然質問される。地雷を踏みぬかれた。

「い、いるわけないでしょ…なによイヤミか?」

「いや、普通に気になっただけ。気に障ったらごめん。」

確かに気には障ったけど謝ってくれるあたりいい人なので許してやろう。

「じゃあ佐倉くんはどうなの?」

反撃。

「ん~去年に別れちゃってそれっきり。価値観が合わなくて。」

バンドかよっていう感想は心の中に閉じ込めておいて私は少し驚いた表情を作る。まぁ驚いたのは事実である。

「へぇ、絶対いるもんだと思ってた。」

「いやそんな、俺もそんなイケメンじゃないしモテるようなできた人間じゃないから。」

笑いながら言う。嘘つけお前は普通にかっこいいわ。絶対にお前を好いてる女そこら中にいるぞ。私はそんなことを思いながらできるだけ丁寧な言葉に噛み砕いて話す。

「えぇでも佐倉くんかっこいいと思うけどなぁ運動できるし。」

背番号10番だしというのはなんとなく伏せておく。

 「ほんと?なら嬉しいな。」

はにかむ佐倉くん。うろたえる結城さん。その笑顔は人を虜にするからやめな?

 

木曜日。

ではなく下校しなさいと言われた水曜日の放課後。靴箱。雨。

雨?聞いてないが。私は悲しいぞ。朝の天気予報士に少々のいら立ちを込めながら思案。諦め。そろそろ水も滴るいい女になってもいい年齢だろう。とか考えていたら。

「結城さん、傘ないの?一緒に帰ろうか?」

救世主の声がする。神様かと思ってその声の主を探す。

まぁそりゃ佐倉くんである。3年生のこの時期でこんな時間まで学校にいる人なんてそうそういない。

「それは嬉しいけど…家の方向逆じゃない?」

「ん、まぁそこまで遠回りにはならないからいいよ気にしないで。」

優しい人である。感動だ。お言葉に甘える。

「ん、じゃあ…」

そう言って私は傘に入れてもらう。近づく距離。高まる鼓動。濡れる肩。あまり文句は言えない。あと雰囲気で言わなきゃと思って言ったけど別に鼓動は高まってない。むしろ寒すぎて鼓動止まりかけである。12月なんだからどうせなら雪降ってよ。

「あっ結城さん、こっちに来なよ。」

え、なにそれ新手のナンパみたいなやつですか?

「いや、そっち車道だから水しぶきとかが、」

えっ。

「あ、うん…。」

イケメンじゃん。微笑む佐倉くん。うろたえる結城さん。盛大に走り抜ける車。盛大にずぶぬれる佐倉くんと結城さん。

…………………。

「……俺の家近いからタオル貸すよ?」

ありがたくお借りさせていただきます…。

 

というわけで。

「お邪魔しまーす…。」

「いいよ、いまは俺しかいないから。」

なんかそれはそれで私が怖いけどまぁ佐倉くんも出会って3日の人に危害を加えたりはしないだろうと信じる。

 「そこ、洗面所にタオルあるから使っていいよ。」

「ん、ありがと。」

ほんとはシャワーも浴びたいけどそれは流石にいろいろと駄目なのでタオルで制服を拭くだけにしておく。なんで車からの水しぶきで肩まで濡れるんだ?道路交通法違反でしょ。そんな愚痴をこぼしながら洗面所から出る。

「ごめんね~ありがっっっ!」

私はむせる。佐倉くん、かわいい。たぶんただの部屋着なんだろうけど学ランを着てるときはかっこいいなぁくらいだったのになんだかとってもかわいく見えてきた。

「蟻が?」

中身は相変わらずだけど。にしたってなんだかかわいい。

「いや、ありがとうって、」

「蟻が到底?」

存在しない文を作るな。かわいいかよ。駄目だ。そんな別にオシャレでも何でもない部屋着を着てるだけなのに学校でのイメージと全然違う。何されてもかわいく思えてくる。

「いや、なんでもないよ。」

人生ときには諦めも肝心。私の座右の銘である。ちなみに私は卒業文集をあと2日で書き上げることは半ば諦めかけている。

「そっか、まだ親も帰ってこないから雨やむまでうちいてもいいよ。あと1時間もすればやむらしいし。」

なんて親切。私だったら傘渡して追い出してる。

「ごめんね、いろいろ迷惑かけちゃって。」

「いいよ全然、まぁ特にやることもないから文集の続きでも考えようか。」

名案だ。私はずぶ濡れのカバンから原稿用紙を取り出す。奇跡的に無傷だ。

「佐倉くんは今日どのくらい進んだ?」

「ん~100文字くらいは書けたかな。」

「ひゃくもじ!!」

ヒャクモジというのは400文字の4分の1ですか?え?私はまだ40分の1ですが。

「すすすごいねどどどうしたのき、昨日まではぜ、全然だったのに。」

私は冷静を装いながら聞く。

「どうしたのそんなにうろたえて。」

バレている。何故だ。

「う~ん、まぁこれだったら自信もって書けるかなってものが見つかったからさ。タイトルも変えた。」

へぇ~、なんだろ。サッカーの試合とかか?

「ひみつ!文集手渡されるまでお互い書いたことは内緒にしとこうよ、そのほうが楽しいし。」

彼はそう言って朗笑する。なんだ急にかわいい提案してきやがって。まぁそれは面白そうだ。

「よし!じゃあ俺はいまから真面目に書くぞ!」

えらいなぁ。私もとりあえずシャーペンを取り出してやる気を出す。確かに環境が違うからここでは頑張れるかもしれない。

 

7秒後。

私はそっとシャーペンを置く。無理である。当然だ。

原稿用紙くんとサヨナラして私は佐倉くんの横顔を見つめる。そういえばいつも真正面からしか見たことなかったなぁ。横顔なかなか整ってるじゃん。きれいだなぁ。

そしていつもと違う服。何回見てもかわいいと思えてしまう。なんでだ?男子に対して可愛いと思うなんて初めてなんだが。

ふむ。人の気持ちは難しいものである。そういえば道徳も苦手教科だ私。まさか自分の気持ちも理解できないとは。こんな感情中学3年間で初めてだ。

そんなことを思っていたら。あっという間に30分ほど経ってしまい。雨もやんでいたので帰らせてもらうことに。

「ごめんね~今日はいろいろと、ほんとありがと。」

「いや、いいよ全然また明日ね~。」

「うん、じゃあね!」

そう言って私は佐倉くんの家を出る。

 

なんだか寂しいな。

私の鼓動はこんな真冬の寒さにもかかわらず少しだけ高まっていた。

 

【卒業文集の進捗 10 / 400】

タイトルと一文目の『私の』まで書いた。えらい。

 

木曜日。今度は本当に木曜日。

私は1日中よく分からない感情に苛まれていた。たぶんこれは佐倉くんに対してのもの。そう考えると腹も立ってくるものだがなんかそれ以上の感情のほうがあいつに対しては重い気がする。まぁあとあいつといるのも今日と明日だけだからな。別にいいや。

まぁ、そのことを考えると少し胸がチクってなるのは秘密。

そんなこんなで迎えた放課後。

来ない。佐倉くん。なんで。そんなんで書く気持ちも湧くわけがなく30分くらい外のサッカー部を眺めていたら。

「やっほ。」

呑気な声だ。佐倉くんだ。今日は部屋着じゃない。当たり前だけど。でもなんだかかわいく思える。

「やっほやっほ。今日遅かったね。」

私も適当に返す。

「ごめんごめん、文集書き終わったから先に先生に出してきたんだよね。」

え。適当に返せない答えが返ってきた。なに、書き終わったって。

「昨日結城さんが帰ったあとも書き続けてたらいつの間にか終わってて。」

「へ、へぇ。そそそそうなんだだだだ、よよよかったじゃん。」

私は平静を装って答える。たぶん装えてない。あれ、でも、

「じゃあなんで今日はここに来たの?書き終わったんなら…」

私の言葉を遮るようにして佐倉くんは答える。人の話は最後まで聞いてよ。

「あぁ、それは結城さんに会いたかったから。」

「話は最後までっでっでっでっで会いたかっっっってってななななななななによ!?!?」

私はもう平静とか言う言葉を投げ捨ててしまう。困った。私が実はクールな人間じゃないことがバレてしまう。

「どうしたの…大丈夫?」

大丈夫ではないけど大丈夫ではない理由は分からない。なんで会いたかったからって言われただけでこんな顔が熱くなるのかがわからない。

「だだだ大丈夫…それで会いたかったって何。」

「ん~なんて言うかな、せっかくちょっとだけだけど二人で楽しい時間を過ごせたから、最後の挨拶くらいはしなきゃなって。」

「最後…?明日は…」

「明日は来れるか微妙だなぁ、今日で書き上げられることを期待してるよ…ってどうしたの!?」

私は答えることができない。何故かって言われると困るけどまぁ私の机の上に小さめの水たまりができようとしてる状況を見て察してほしい。

「なんでそんなに泣いてるの…。」

せっかく本人が濁したのに佐倉くんは直球で聞いてくる。ほんとに国語4かそれで?

「な、なんでもない…けど今日はなんか文集書く気失せちゃった。ちょっと二人で話しようよ。」

私は女の子らしくわがままを言う。友だちが女の子はわがままを言うことによって生きてる生物だって言ってたのを思い出した。どんな話のときだっけ…恋愛の話?

「ん…それはいいけど書き上げなよちゃんと?」

佐倉くんは少しおどけたように笑いながら言う。あぁ駄目だ。かわいいなぁ。そんなに微笑まれたらそりゃうろたえもするじゃないか。好きだなぁ。

 

ん?私いまなんて思った?好き?佐倉くんに?出会ってからたった4日なのに?好き?好き?そうかぁ。好きかぁ。

私は納得する。心と脳が好きって言ったんならしょうがない。好きなんだろう。

直観第一。私の座右の銘である。ちなみにこの銘はいま思いついた。

 

はぁ…私は佐倉くんのことが好きなんだろうな。

 

でもあと1日で会えなくなるんだ。明日は来てくれるかわかんないしもしかしたら今日が最後かもしれない。そりゃ、3学期また会えるかもしれないけどクラスが違うしきっと彼は人気者、そこまで話すこともなくなるだろう。

ダメだなぁ。そこまで考えてますます水たまりが大きくなりかける。必死に我慢。今日が最後なんなら明るくたくさん話したいこと話すんだ。

 

そして、卒業文集は一向に進まないまま今日も最終下校時間。でも今日はいいんだ。好きな人とたくさん話せたから。好きな人の笑顔がたくさん見られたから。好きな人のかわいいところがたくさん見られたから。

今日は昨日みたいに雨も降らず晴天。二人ともまっすぐ帰る…帰るけど。

靴箱で私は彼を引き留める。

「あ、あのさ佐倉くん…」

「ん?」

彼は振り向く。ああかわいいな。見返り美人じゃん。

「えっとさ…えっと、なんていうかありがと1週間。」

「え、あぁうん、こちらこそ、って明日も来るかもしれないけど、」

「ううん、いいの。明日も君がいたら絶対に書き終わらないから。」

彼はしばらく考えてから言う。

「そっか、頑張れよ。」

「うん、ありがと。佐倉くんはいっつも優しいね。」

「えっ、全然そんなことないよ。」

照れた顔もかわいいな。そんなことを思いながら私は話を続ける。私は単刀直入が座右の銘な女。回りくどいのが嫌いだ。

「あのさ、佐倉くん、彼女いまいないんでしょ、でもね、すぐにきっと素敵な人が見つかると思う、……応援してるよ。」

私は人生ときには諦めが肝心が座右の銘な女。こんなかわいくてかっこよくて優しくて素敵な人には私よりもっとお似合いの人が隣にいるべきなんだ。そうなんだ。そうに決まってる。

「え…あぁありがと、元気出たわ。」

「うん。ならよかった。…じゃあね。」

「おう!じゃあ!!」

佐倉くんは微笑みながら私とは逆の道へ歩いていく。最後までかわいいな。最後まで私の心と脳を引き付けてくれる。全く、困ったやつだ。

私はそんなことを思いながら今日一番の水たまりを一人で作ろうとしていた。

 

【卒業文集の進捗 10 / 400】

でも大丈夫。書きたいことは決まった。

 

金曜日。

私は放課後ついに一人になってしまった。原稿用紙とご対面。今日こそはこいつに勝たなければ。

 

3時間後。

「終わった…。」

ようやく書き終わった。私の最近の座右の銘『直観第一』に従って昨日思いついたことを書こうと思ったが意外にも時間がかかってしまった。先生に提出に行く。

「失礼します、3年の結城です。文集を渡しに来ました…。」

「ん、ギリギリねぇお疲れ様。」

「すいません…。」

「でも佐倉くんと仲良くしてたようでよかったわ。」

え?何で先生がそのことを知ってるんだ?でもまぁさすがにそんなことを聞く勇気はなく。

「えぇ、まぁ…。」

そういってお茶を濁す。そしてそそくさと職員室から立ち去りそのまま靴箱へ。当然、こんな時間だから誰かいるわけがなく。

 

少しだけ、ほんの少しだけ期待してたんだけどね。

 

そんなことを思いながら私は一人で家へと帰る。今日の天気は雨。地面にはこの1週間で見た中で一番大きな水たまりができていた。

傘の中には、ひとりだけ。

 

【卒業文集の進捗 400 / 400】

ようやく終わった!でも、でも少し寂しいなぁ。

 

 

卒業文集なんて嫌いだ。

小学校のときからそうだ。6年生のときにアルバムに載せる文章を書けと言われたが全然鉛筆が進まない。それは鉛筆がシャーペンに変わった今でも同じだった。私の中学校では卒業記念にみんなが将来の夢だとか3年間の思い出だとかを書いてそれをまとめて文集にするらしい。全くもって困った行事だ。

将来の夢がないわけじゃない。漠然とだけどなりたいものはある。でもその夢は文集に書けるほど全力で目指してるものじゃない。

3年間の思い出がないわけじゃない。友達だってまぁそこそこはいるし修学旅行も体育会もどれも楽しかったし大切な思い出だ。でも、どれかについて書けと言われるとそれはそれでなんかしっくりこない。

なんて思ってた。

確かに1週間、放課後を無駄にしてしまったのかもしれない。受験とかあるし友達とも遊びに行きたかった。それに結局書いたこともしょうもない。どうせ将来読んだら黒歴史だろう。

だけど。

そのおかげで佐倉くんというとっても素晴らしい人間に出会えた。

それだけだけど、少しだけ卒業文集のことが好きになってしまったかもしれない。

なんてね。

はぁ…。

 

これは結城なんていうたいそうな名字をもらいながら、結局勇気も出せずに勝手に失恋した哀れな女子中学生のお話。

 

 

 

でも、そのあとの私について少し語らせてもらおうかな。

まぁ冬休みを受験勉強でつぶした私は大した休みを得る間もないまま3学期へ。もちろん、佐倉くんとも何回かは会ったしちょっとは話した。でもほんとにちょっとだけ。廊下でたまたま出くわすくらいだからしょうがない。私はそのたびに懸命に平静を装いながら話す。彼と話す時間はそりゃ短かったけど私はそれだけで1週間分の活力は得られていた。安直な女だ。そりゃ座右の銘が単刀直入なわけだ。

 

そんなわけで迎えた卒業式。

途中寝落ちしそうにながらもなんとか耐えて教室でのホームルーム。

「は~いじゃあアルバムと文集配りま~す!!」

「いえええええええええええいいい!!!」

沸き立つクラス。引く先生。沸き立つ私。引く保護者の皆さん。ごめんねこんなクラスで。

そして私もアルバムと文集を受け取る。

アルバムをさらっと見終わって私は本題の文集へと手を伸ばす。今まではこんなもの貰って2秒でどこかへ消え去っていたが今回は別格だ。私の文章はちゃんと載ってるだろうか。私の想いはきちんと印刷されてるだろうか。

確認する。あぁ、よかった。ちゃんとあった。佐倉くん、読んでくれるかなぁ。読んでくれるかわからない。それでもこれだけは伝えたかった。

私の名字は結城。名前は香奈。夢を「かな」えてほしいから、だそうだ。そのために、私はちょっとだけの「ゆうき」を振り絞った。

人生ときには諦めも肝心。私の座右の銘だ。でもそれは「ときには」なことを忘れてもらっちゃ困る。

 

私は佐倉くんの文章を探す。あった。読む。

 

 

……。ようやくわかった。あの時先生が仲良くなったねって言ってた理由が。佐倉くんはどこまでも私を喜ばせてくれる。全く、最後まで彼は私を笑顔にさせてくれる。

私は教室を駆け出す。私が熟読してる間に周りはいつの間にか写真撮影タイムだ。そんなことより。私は佐倉くんに会いたかった。佐倉くんのクラスへと向かう。標的発見。

「佐倉くん!!!!!!」

「ん、あっ結城さん!久しぶり。」

「久しぶりだね。それで、この文集…!」

私は動揺を隠せないままに聞く。

「あ、バレちゃった。」

こんなことを言いやがる。全くそのおどけた顔までかわいい。ていうか、こんな文才あるのか佐倉くん。絶対国語5じゃん。謙遜してたな?

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こんな文章書かれたらもう佐倉くんのところに行くしかないじゃないか。大好きだ。ほんとに。なにからなにまで彼は私の好きを増大させる。だからもう一つだけ私はわがままを言う。

「ねぇ。今日、一緒に帰らない?」

 

3月。今年は気温が温かいそうで外は一面薄紅だ。そんな薄紅で染まった道を私たちは二人で歩く。佐倉くんとたわいもない話をする。あぁ楽しいなぁ。まるであの1週間のときみたいだ。

そんなこんなで佐倉くんの家の前に着く。さすがに今日は家に転がり込めない。今日肩にあるのは雨じゃなくて花びらだ。

「ごめんね、わがまま言っちゃって。」

私はまず謝罪。

「いいよ、卒業文集を一緒に書いた人と卒業の日一緒に帰るなんてなんか素敵じゃん。」

あぁ優しい。やめてよ。私がここから動きたくなくなるじゃない。

「それで、質問があるんだけど。」

「うん?」

「私、あの時の最後に、彼女できると思うって言ったじゃん。それで、現時点での結果は?」

なかなか失礼な質問なことは承知だがここは単刀直入で押し切る。

「あぁ…残念ながら相変わらず独り身だよ。」

なるほど、私は悲しむべきか嬉しむべきかわからない。

「そうなん…」

「でもね、俺はそれでよかったと思ってる。」

またこいつはすぐに人の話を遮る。えっていうかよかったの?なんで??

「これ。読んだ。」

そう言って彼はカバンから文集を取り出し私の文章のところを開く。

げげげ。もしかして、バレた?

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「俺、何気に国語の評定は4なんだ。こういうのには鋭いんだよ。」

いや、これは国語とかは関係ないでしょとか思ってる間に彼は指を横へ走らせる。

「何となく読んでて、ほんとに何となく気づいたんだ。でもそれで気づいて確信した。俺らは今日からもずっと一緒にいるべきなんじゃないか?」

佐倉くんは微笑みながら言う。

……………………え?ずっと、いっしょに、いるべきなんじゃないか…?え?ほんと?わたしに言ってるそれ?そのかわいい笑顔は私に向けられてるもの?

気付けば私のほっぺたには滝が。このままじゃ地面の蟻が到底思いもよらなかったくらいのゲリラ豪雨を体験してしまう。

「えっ、ちょっと、だいじょうぶ…?」

佐倉くんがうろたえている。そんな姿もかわいい。私はぐちゃぐちゃの感情の中で懸命に言葉を絞り出す。

「だいじょうぶなっわけっないでしょ!こんなんなっっってるんだから。全部佐倉くんのせいなんだから!わたしもっ佐倉くんと一緒にいたいの!!」

なんてざまだ。予定ではもうちょっとカッコよく颯爽とお別れするつもりだったのに。今の私は颯爽という言葉の対局にいる。

それでも。うれしい。まさか、佐倉くんからこんな言葉が聞けるなんて。あの呑気な佐倉くんから。

「そう…か、なら、俺もとっても嬉しいな。」

そう言って彼はもう顔も心もぐしゃぐしゃな私をそっと抱きしめる。全く、あんなにかわいいのにしっかり身体は男の子だ。背も高いし筋肉もある。私は制服に涙とかがつかないように気をつけながら、それでも佐倉くんに体を預ける。あれ、上から液体が。雨?って思ったけどこれはほんのちょっとだけ上からのゲリラ豪雨だ。佐倉くん、泣いてる…。かわいいなぁ。私も人のこと言えないけど。

そんなことを思いながら、私たち二人は満開の「さくら」の下で朗「しょう」した。

 

 

卒業文集なんて嫌いだ。

小学校のときからそうだ。6年生のときにアルバムに載せる文章を書けと言われたが全然鉛筆が進まない。それは鉛筆がシャーペンに変わった今でも同じだった。私の中学校では卒業記念にみんなが将来の夢だとか3年間の思い出だとかを書いてそれをまとめて文集にするらしい。全くもって困った行事だ。

将来の夢がないわけじゃない。漠然とだけどなりたいものはある。でもその夢は文集に書けるほど全力で目指してるものじゃない。

3年間の思い出がないわけじゃない。友達だってまぁそこそこはいるし修学旅行も体育会もどれも楽しかったし大切な思い出だ。でも、どれかについて書けと言われるとそれはそれでなんかしっくりこない。

なんて思ってた。

でも、今となっては違う。

私はこの卒業文集のおかげで好きな人と出会えたし、好きな人と結ばれることができた。こんな私に大切な人ができたのは、この卒業文集のおかげだ。

卒業文集なんて嫌いだ。なんてもうとても言えないや。

 

 

私は卒業文集が大好きです!!!

 

 

~あとがき~

どうも。久しぶりに小説を書いたんですけどまさか1万字超えるとは思ってませんでした。ひらららです。僕の中で1万字書いた記憶は今までないので大長編です。書き終わってから言うのであれなんですけどこれ飽きませんでした?なんか長くなるとそういうところが心配です。まぁ個人的にはこんなに長文書いたので登場人物たちには感情移入しまくりましたが。結城さんの言動は自分が操ってるはずなのになかなかいうこと聞いてくれなくて困りましたが、なんだかんだ好きです。途中泣きそうになりました。二人ともお幸せにね…。そのうちこの続きが思いついたら書きたいですね。この2人はなんかとっても愛着を持ってしまったので。実は「結城」と「佐倉」って言う名字は最初は適当に思いついてそのまま書き進めたのですがうまいこと物語に絡められてよかったです。佐倉くんのフルネームが某アイドルに似てるのはたまたまです。触れないでください。

まぁここまで読んで皆さんも疲れたと思うのであとがきは短くここらへんで!それでは、ひららら先生の次回作にご期待ください!!

エピローグ

『…読んでやってくださいな。僕がとても喜びます。では!!』

そう入力してから男はそっとエンターキーを押して下書きを更新した。日差しが心地いい午後3時30分ごろである。

「ようやく終わった…」

男はそう呟いてそばに置いてある紅茶を飲み干した。毎日毎日ネタ探しに苦心していたその男の表情はもう疲れ切っている。

『次回予告!僕が起きてたら21:30が目標』

そう書いた文章をブログの序文とともに某SNSに投稿する。

まぁ、その時間には起きてないんだけどな。

そんなことを思いながら男は静かに嗤う。

そしてブログの自動投稿の設定とSNS共有の設定を急ぐ。

~~~~

午後4時30分。SNSを巡回しながら諸々の設定を終わらせた男はもう一度紅茶を淹れにキッチンへと向かう。その帰途、考える。ブログの共有設定は終わった、ブログに対するコメントに反応する機能も正常だ。あと何かすることはあっただろうか。

あぁ、そうだ。もう一つ書き上げなければならないものがあるんだった。憂鬱な気分になる。結局いつまで経っても僕は文章という呪縛から逃れることはできないんだな。そう思いながら男は再びパソコンに向かい文章を書き始めた。タイトルを確定する。

 

『エピローグ』

 

~~~~

午後9時。ブログの投稿もあと30分だ。僕に残された時間もあと30分だ。男はそんなことを思いながら『エピローグ』と名付けられたそのブログを書き上げ更新する。そういえば最後のブログは『遺書』と名付けるので…みたいな文章を書いた覚えもあるが些細な違いだろう。どうせ誰も覚えてなんかない。さて、何時投稿にしようか。少し迷ってから最後のブログの10分後に時間を設定する。このくらいがちょうどいいだろう。そうして設定を変更する。

~~~~

午後9時25分。男はあいも変わらず紅茶を嗜む。

「さて…」

引き出しから何やら薬のようなものを取り出す。アーモンドのような香りが部屋に漂う。それを袋から取り出し男は紅茶の中に放り込む。

この1か月、男は苦しんでいた。待ち焦がれていた大学での日々も始まらず、家で毎日だらけてばかりの日々。暇つぶしにでもと思ってブログを書き始めた。もちろん、最初のほうこそ楽しかったがやがてそれは作業的なものとなっていった。苦しい。苦しい。男はやがて哀しくなった。僕の存在意義は文字上にしかないのか。現実ではだらけてばかり。したいこともできない。自分を表現できるのはこのブログの上だけだ。

僕は、無価値だ。無価値だ。無価値だ。無価値だ。無価値だ。無価値だ。無価値だ。……

男は薬を投げ入れた紅茶をそっと口に含む。

ちょうどその時、目の前にあるパソコンでSNSが『たくさんの黒歴史が生まれた』と名付けられたブログが投稿された旨を告げる。

 

男はもがきながら、椅子から堕ちていった。紅茶が散乱し、それを被ったパソコンはもう動かない。

この部屋で動くものはもうただ一つとして存在していない。

月の明かりが窓から突き刺すように差し込んでくる午後9時30分のことだった。

 

 

その10分後、SNSにそっと『プロローグ』という題名の遺書が共有された。

 

最後の、投稿だった。

ひらららさんの書斎にご案内いたしましょう

どうも。今日こそは朝4時をお知らせしてくれる人と会うまいと思ってたのに見事に面会してしまいました。ひらららです。現在時刻は午前4時50分です。なんでなの???

さて、今日はついさっき要望があったのでこんなことを書きたいと思います(要約)。

「ひらららくんとめっちゃ本の趣味が合うので紹介してほしい~!」

らしいです。まぁ僕はそんな王道から逸れた本は読んでないんですけどこの人とはびっくりするくらい一致したので驚きです。というわけで僕の本棚からいくつかおすすめを紹介していきますかね。

 

1.『怪盗クイーン』シリーズ / はやみねかおる

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みなさんも小学生の時代があったと思います。さすがにこの文章を幼稚園児が読んでることはないと思うので。小学生のころってみなさん小説なに読んでましたか?まぁ児童書がほとんどだと思います。角川のつばさ文庫とか集英社のみらい文庫とか読んでました。その中でも一番僕が読んでたのが講談社青い鳥文庫でした。めっちゃなんでも読んでました。パスワードとかKzとかはその頃は推理小説が好きだったので読んでたし活字中毒の節があったので黒魔女さんとか若おかみとかも読んでました。まぁそんななかで。僕がそのころから一番好きで唯一と言っていいくらいずっと買い集めているのがはやみねかおるさんのシリーズなんですが。みなさんも一度くらいは夢水清志郎とか内藤内人くんとかの物語を読んだことがあると思います。前置きが長くなりすぎた。

まぁそんななかで今回紹介するのは『怪盗クイーン』シリーズです。今度本屋に行く機会があったら青い鳥文庫のコーナーを覗いてみてください。たぶんなんかとびぬけて太い本が何冊かあると思います。それがクイーンです。いま僕の手元にあるやつは600ページ以上ありました。

簡単に物語の大枠を説明しましょう。年齢も性別もわからない神出鬼没の大怪盗と選ばれし世界最高峰の13人が集まった探偵卿、さらにそれに介入する世界各国の闇組織の熾烈なアクションバトル…だったらいいなぁ。めっちゃ脚色したらこんな感じです。脚色を抜かせば、人生はC調と遊び心と言い張り住処の飛行船でひたすら対象年齢3歳以上の知育玩具に精を出すだらけた怪盗、とりあえず日本刀で何でも斬ろうとしたりコンビニバイトに命を懸けたり他人の介入がないところで一人ギャルゲーに熱中したりする変人どもが13人も集う探偵卿、さらに怪盗が変なことをして恨みを買っている犯罪組織、のドタバタ狂騒劇です。

どうです?なんだかんだで面白そうでしょう?別ベクトルからおすすめをするとたぶん何かしらのオタクをやってる人には登場キャラの誰かが必ず刺さると思います。ぜひ、新しい推しを見つけてみませんか??

 

2.『浜村渚の計算ノート』シリーズ / 青柳碧人

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僕の趣味は今でこそTwitterになっちゃってますがそれ以前の趣味は読書と数学でした。いや今でも好きだけどね。そんな時期に見つけたのがこの本です。タイトルからラノベ臭がしますがミステリーです。まぁキャラクターメインのミステリー感は読んでてあるけどね。第1巻の第1話から四色問題が題材になってるんですよ?読むしかないです。

さて、物語の要約です。とある時の日本、教育改革によって数学は義務教育から抹消されてしまいました。そんな日本に対して数学者たちの一部が猛反発、「黒い三角定規」として各地でテロを起こし始めてしまいました。警察は彼らの数学テロに圧倒されるばかり、そんななか救世主が現れた!その救世主はなんと高校1年生!?その小さな身体でどんどんテロリストを糾弾し捕まえていく痛快数学ミステリー!!…だったらいいなぁ。実際は数学テロが起こされて高校1年生がそれに対抗していくのはあってますが糾弾とかはあんまりないです。そんなに浜村さんは強いこと言えません。ただただ数学が大好きなだけの普通の女の子です。それでも一生懸命数学でテロリストさんたちを説得しようとします。ちなみに僕が今までのブログでヒルベルトさんとかゲーデルさんとか数学者にさん付けしてるのは浜村さんの影響です。

数学が苦手なそこのあなたでも、普通に面白いゆるふわミステリーとして読めるのでぜひ!…まぁ作中で結構人は死んでますけど。

 

3.『シャーロック・ホームズ』シリーズ / コナン・ドイル

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僕はあんまり海外旅行に行きたいなっていう気持ちはないのですが、もしそんな機会に恵まれたら真っ先に行きたいのはイギリスです。大英博物館とかずっといたいですね。それともう一つ。ベーカー街221Bにも行きたいです。そうです。ホームズとワトソンが住んでいた場所です。僕はいつまで経っても推理小説と言えばホームズってイメージから抜け出せませんね。アガサ・クリスティーポアロとかも読んでみたいとは思いつついまだに読めてない。彼女の小説だと「そして誰もいなくなった」しか読んだことないですね。こちらも面白いので是非。

話が逸れた。僕はホームズは青い鳥文庫で全部読んだしいまだに持ってるのですが。子供の頃に読んだ影響というのはすごいもので僕は何故かちょっと偉ぶるとき「~ということなのだよ。わかったかねワトソンくん」っていう癖があります。なかなかに腹立たしいですね。ホームズを根っことして各地の名探偵が生まれていった節はあると思うので推理小説が好きな方はぜひぜひ読んでほしいですね。個人的には「恐怖の谷」が一番好きかなぁ。まぁ後半はホームズ登場しませんけど、また全然別の冒険譚?って感じかな、で楽しめます。

 

4.『月刊少女野崎くん』シリーズ / 椿いづみ

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ここからは少し趣向を変えて漫画のご紹介です。僕はハニワが好きだってのはたぶんどこかしらで言ったと思いますけどそれ以来恋愛小説とか漫画とかも好きになってしまいました。まぁ一番好きなのは身近な人の恋バナなので何かあったら聞かせてね。それはそれとして。僕が負けヒロインが好きとは言いましたがまぁそれでも全員ハッピーエンドにはなってほしいものです。とはいえ普通の恋愛ものはまぁ起承転結の王道に乗っかるとどうしても転のとこで試練が訪れます。ちょっと心が痛くなりますね。なんだかんだで感情移入するタイプなので。

そういうわけで。僕がラブコメを好きになるのもそりゃ当然みたいな感じですね。そのなかでも特に好きなのがこの『月刊少女野崎くん』です。コメディコメディしてます。主人公の千代ちゃんが惚れてる野崎くんに告白したところ実は野崎くんは少女漫画家でファンだと間違えてなんやかんやあって千代ちゃんはアシスタントに…という導入だけでコメディです。僕は御子柴くんが好きです!イケメンキザ男だけど実はオタク…みたいなキャラです。かわいいです。あと若松くんも好きです。これは同情です。ていうか漫画だったら読みやすいと思うのでぜひぜひ読んでくれ~!最近アニメ1話の再放送もあったらしいので。アニメは僕もあんまり見てないのでそのうち見たいなぁというお気持ち。同じラブコメ系統だとか『この美術部には問題がある!』とかも好きなのでぜひ!こっちは逆に原作読んでないなぁそういえば。

 

5.『文豪ストレイドッグス』シリーズ / 朝霧カフカ

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もう1つ漫画を紹介しますがこちらは全然ジャンルが違いますね。ほとんどラブコメの要素ないしなんなら戦いまくります。

だいたいのあらすじを言いますと、めっちゃすごい異能を持つ人たちが横浜を舞台にてんやわんやするお話です。僕はこれと言った主人公を持たないタイプの物語も好きなのですがこれはまさにド直球で僕の心を抉ってきます。一応、主人公は探偵社の敦くんなんですけど探偵社のみんなの過去とか掘り下げてくれてみんな主人公です。好きになっちゃいます。なんならマフィアとか組合とかそういう敵組織の人物のキャラも掘り下げてくれるのでもうみんな応援したくなっちゃいますね。 単行本最新刊のところまでしか読んでないんですけどもうびっくりするくらい話がいい意味でごちゃごちゃしてきて最高です。いったい誰が最後に嗤うんだろうね。

個人的な推しはもう何回も言ってる気がしますがモンゴメリさんです。好きです。たぶん僕は永遠にああいうタイプのキャラが好きなんだなって思いました。それと乱歩さんも好きです。永遠にポオ君と遊んでてほしいですね。僕はまだ本編しか読んでないのですがなんかいろいろと話が他で展開されてるので全部読みたいです。社長と乱歩さんの小説早く読みたいなぁ。

 

6.『フェルマーの最終定理』/ サイモン・シン

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 皆さんはピタゴラスの定理って知ってますか?まぁ知ってなきゃ困りますが。直角三角形の斜辺の長さの2乗は他の2辺の2乗の和に等しい…まぁ数式化すると「x² + y² = z²」です。さて、時の天才数学者フェルマーさんはこの式に少し手を加えたところ面白いことに気づきました。なんとこの指数を3以上の自然数に変えたらどうもこれを成り立たせるx,y,zの組は存在しないらしいです。そしてフェルマーさんはこの予想を無事証明しました。しかし数学者というものは基本的に変人揃い、なんとこの証明を書き残さずにお亡くなりになってしまいました。ここに約4世紀にもわたって数学者を苦しめることとなる「フェルマーの最終定理」が生まれたわけです。本来、数学の世界において証明が認められないものは定理でなく予想とされるのですが(リーマン予想とかABC予想とかね)、この数式に関しては「あのフェルマーが言ってるんだから合ってるやろ!」ってなって定理って呼ばれ続けてたっぽいです。すごいですね。

さて、そんなフェルマーの最終定理も20世紀末、ついにワイルズさんによって証明されました。すごいです。そんな約4世紀にわたるフェルマーさんと数学者さんたちの戦いの記録がこの本、『フェルマーの最終定理』なのです。この定理が決してワイルズさんただ一人によって証明されたなんてことは全然なく、たくさんの数学者さんの足跡をたどっていった結果だということが分かります。日本人びいきする気はありませんが、この証明には谷山さんと志村さんっていう日本の数学者も一枚かんでるのでぜひぜひその業績も見てほしいですね。

 

さて、今回はひとまずこんなところですかね。どうです?興味の惹かれる本はありましたか?気になった本があったらぜひ図書館で借りるなり(今閉まってるけど)、本屋で買うなり(今外出自粛だけど)、ネット通販で買うなり(今混雑してそうだけど)、してくださいな。個人的には最後の『フェルマーの最終定理』がおすすめです!そこの文系のあなた、ぜひとも読んでみませんか??(オチ担当みたいにしたけど普通に誰でも読みやすいし面白いので是非)

というわけで今日はここらへんで!フェルマーさんのノートと違ってこのブログはまだまだ余白はあるけど残念ながら僕の語彙力はもうないのでここで終わり!そりゃ久しぶりに4500字も書いたら語彙力も無くなるわ!!みんなも僕の軽い文章じゃなくてちゃんとした文章読まないと後々レポートとか書くときに困ったことになるぞ!!

あと一年が待ち遠しくて

「はい、じゃあ授業を始めまーす。」

パソコンの画面から先生の声が聞こえる。はぁ…。全く、なんでこんなご時世でも授業は普通に行われんだよ。どうせ習ったことを活用する社会なんてもう訪れそうもないのによ。

俺の名前は…なんてどうでもいいか。とりあえずちょうどこの春から高校一年生のありふれた男だ。まぁ、高校生って言ってもこんなウイルスが蔓延しまくってるせいで少なくとも今後一年はオンラインでの授業が決定してるけど。ていうかもう高校に足を運ぶ機会は二度とない気もするが。そんなわけで俺が晴れて合格した高校には受験以来行くこともなく。入学式などもなかったのでクラスメートの顔すらわからない。オンラインで自己紹介をする予定だったが誰かの保護者がプライバシーがなんたらかんたらと苦情を言ったために今年は匿名での授業参加になったらしい。まぁ名前を知ってようが知らないでようがどうせあと一年会う機会なんてないんだからどうでもいいっちゃどうでもいいと思う。なんなら二度と会うことはない可能性の方が高いとまで思ってる。だから不必要に個人情報を公開するのは得策ではないかなっていう持論だ。

…そう、思ってたんだけどなぁ。

 

「…この二次関数の頂点は原点であるから……」

数学の先生の声が右から左へと流れていく。一応教科書は開いているがノートなんぞ買ってもない。目はパソコン上の黒板に向いているが正直全然頭に入ってこない。これが教室だったら多少は集中できるのかなとも思うがよく考えたら中学時代も別に呑気に寝まくってたのであんまり変わらないかもしれない。二次関数のグラフが描けたところでウイルスの排除に繋がるわけないんだからこんなの勉強しても意味なさそうなんだがな。同じ画面を見てる名前も顔も知らないクラスメートたちは真面目に話を聞いてるのだろうか。そんなことを思いながら俺は下に凸とか言うよく分からない言い方の放物線に目と鼻と髪を描き加える。なかなかいい出来だな。そんなことを思っていたところ。

「こら!君なにをしてるんだ!!」

突然画面の向こうの先生から怒られた。なんだ?この部屋には監視カメラでも付いてるのか??と一瞬思ったがそんなはずはなく。狭いパソコンの画面の中には先生の姿ともう一人、クラスメートであろう女子の顔が写っていた。ツインテールでちゃんと言われた通り制服も着ている。俺のようなパジャマで受けている人間とは大違いの真面目そうな人だ。ぱっちり目が合う。誤操作でもしたのだろうか?

「あ…すみまs」

彼女は謝罪の言葉も言い終わらないうちに画面から消えてしまった。

「えぇ…こういうこともあるので生徒たちはくれぐれも画面内の設定などはいじらないように。」

先生からの注意が入った。俺にはそんな言葉、一つも耳に入らなかったが。

彼女、俺と同じクラスなのか?まぁ同じ授業を受けていたということはそういうことになるわけだが。彼女の顔は俺の目には二秒くらいしか認識されなかったがそれだけで十分わかった。俺はどうも彼女に恋をしてしまったらしい。一目惚れってやつだ。あの慌てふためく顔や女子の平均よりも少し低いくらいの声、お世辞にもおしゃれとは言えないあの制服の着こなし。何を取っても彼女は美しかった。

「はい、じゃあこれで授業を終わります。」

画面の向こうの先生の声がかろうじて耳に届く。だが俺の脳内からは放物線の存在なんぞ消え去ってさっき見た女子の顔と声しか残っていなかった。

授業が終わってパソコンを閉じる。俺は考える。彼女とどう仲良くなればいいんだ…?

まず仲良くなる以前に接点を持とうにも名前もわからない。住んでる場所もわからない。クラスが同じってことは確かだがクラス全員の名前と顔を知らないんだから意味のない情報だ。となるとやっぱ一年後、普通に授業が学校で始まるのを待つしかないのか…?

可笑しな話である。ついさっきまでこの社会はもう滅亡してもう高校に足を運ぶことなんてないし特段行こうとも思ってなかったのにちょっとクラスメートの顔を見ただけで世界平和を望むようになってしまった。まさか高校に行きたいななんて思う日が来るとは。早くさっきの彼女の顔をリアルで見て、そして改めて恋に落ちたいな。そして、今度はちゃんと名前も知って隣を歩きたいな。

俺はこんな絶望しかない世の中なのに、あと一年で平和が帰ってくることを心の底から望んだ。

一年後が待ち遠しい。そんなことを思いながらいつの間にか俺は二次関数でどうやったらウイルスを倒せるか考えるようになってしまった。

 

〜あとがき〜

どうも。小説家になる気はありません。ひらららです。今回の小説の初期プロットはこんな感じでした。

「ウイルスが蔓延しまくった世界、オンライン授業を受ける高校一年生が主人公。画面共有のミスで顔が写ってしまった名前も知らない女の子に恋に落ちる。」

まあほとんどこの大筋からは離れてないので偉いですね。及第点です。ま、書き終わった後読み返したら「こんな苦情を言う保護者存在するのか?」とか「なんでパソコン持ってんのにSNSでクラスメートたちは繋がらないんだ?」とか「この男の子軽々しく恋に落ちすぎじゃない?」とか「話の落とし方が雑すぎじゃない?」とか思ってしまったわけですが。まぁ別に僕は小説家じゃなくただの一般大学生なので許してほしい。いつもは皆さんご存知の通り脈絡のないエッセイ的なものしか書いてないんだから急に小説書こうと思い立ったところでそりゃこんな駄作しかできないよ。というわけでどうでしたか?まぁ2000字もないくらいのめっちゃ短い小説だし続きも書く気はないので軽く読み流してくれたと思います。ちなみに裏話を言うとこの主人公の子、名前は「叶(きょう)」っていう設定があったんですが別に名前出す必要ないなって思って消しました。ごめんね叶くん。

じゃあ今日はそんなところで!あなたたちもオンライン授業で見かけた人に一目惚れするかもしれませんよ??

こちら、ひらららお悩み解決センターです(恋愛編)

どーも。インナーカラーは入れてませんしハッカーでもありません。ひらららです。まぁそれはそれとして。昨日ネタ切れがちなんだよねっていう話をしたら上手いこと空リプで話題をもらいました。そのツイートがこちらなんですが(一部改変)。

「でも別に自分がほんとの恋愛(?)してるかどうかも分からんしそもそもそれがどんなんかも分からんのでその辺についてひらららにはブログで考察して頂きたい」

…なるほどねぇって感じだ。というわけで今日の議題は「恋愛ってなに?」です。今日の僕は自分が恋愛マスターという設定で行くので高飛車でも許してください。マスターなので。

恋愛ってなにって言われても言ってしまえば人によってその愛の形は違うよね。まぁその一般化を頑張ろうねっていう今日のブログです。

個人的に理想のカップルとか夫婦、パートナーの関係は「二人だけの時に無言でいても居心地が悪くない」っていう関係なんですよね。結構ざっくりと言えば。無言の空間をリラックスして過ごせる相手っていうのは結構心を許してる相手に限られると思います。特に恋人同士であればどっちも相手にマイナスなイメージを与えたくないだろうので話さなきゃな…って感じになると思います。でもその段階を超えて「一緒にいるだけで幸せだなぁ」って感じられるようになるのが一番なのかなぁって思います。

まぁあと最初の話題もらったツイートの時のTLは遠距離恋愛ってすごいよね~みたいな話だった覚えがありますが。「愛の力があれば物理的距離なんて関係ない!」なんてきれいごともありますがそんなことはないだろって僕は思いますけどね。そりゃ遠くに行ったら悲しいでしょ。好きな人とは毎日会いたいものなのかなって思いますけどね。「俺らなら遠距離でも大丈夫だよな!」なんて言われるかもですが大丈夫じゃないと思います。普通に悲しんでくれてこその彼氏/彼女じゃないでしょうか?少なくとも僕は遠距離は寂しいですし近くにいてほしいですけどね。遠距離を肯定化するのは僕にとっては難しいです。悲しいことを誤魔化さず正直に悲しいって言えるのもまた本物の愛のカタチなんじゃないですか。

恋愛ってのは難しいですね。二人だけの感情の問題なのにどっちも強い思いをぶつけてるんですからそりゃ明確な答えを出すのも難しいです。「めんどくさいけど楽しい」ものの真骨頂こそが恋愛なんじゃないですか?

と、いうことで今日はこのあたりで終わりかな?こんな感じです僕の恋愛観は。人によってそんなん違うでしょっていうのは最初のほうに言ったけどまぁ少なくとも好きにならないことには恋愛なんて始まらないですからね。みなさんもこの人となら一緒にいて楽しいなって人をぜひぜひ見つけてほしいですね。その人があなたの好きな人なんだと思いますよ。僕が好きになる人はそんな人です。そして片思いしだしたり晴れて両思いになったときはぜひぜひ僕にお話聞かせてくださいな。人の恋バナ傾聴大好き委員会委員長の僕がとっても喜びますので!!